2018 Fiscal Year Research-status Report
自己調整学習における不合理な行動に含まれる心的要因に対する評価と操作の変容過程
Project/Area Number |
16K04333
|
Research Institution | Nakamura Gakuen College |
Principal Investigator |
野上 俊一 中村学園大学, 教育学部, 准教授 (30432826)
|
Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2020-03-31
|
Keywords | 自己調整 / 意思決定 / 努力調整 |
Outline of Annual Research Achievements |
平成30年度は,平成29年度までに実施した,(1)着手遅延(着手開始)の認知過程モデルの妥当性と(2) 課題遂行中の課題中断(あきらめ)や結果として不十分な達成だった場合における学習者が行う心的要因(自分の能力,課題の価値づけ,達成目標,等)に対する評価や操作に関する認知過程モデルの検証結果を学会で報告するとともに,これらの結果を踏まえて,行動が変化する瞬間として課題を取り組み出したタイミングと課題遂行をあきらめたタイミングの2つ臨界点に注目し,この行動の臨界を引き起こす原理をプロスペクト理論の参照点と価値関数によって構成される認知過程モデルの精緻化と追加的な実証研究を行った。 実証研究では多重課題パラダイムを用いた。実験参加者には45分後の締め切り時間に向けて複数の課題を提出することが求められた。課題は,評価の重み付け(早く提出するほど得点が高くなる,提出時期は評価されない)と課題の難易度(難しい,簡単)を操作した積み木課題であった。課題提出時点を従属変数とする分散分析の結果,評価の重み付けと課題の難易度の主効果は有意であったが,有意な交互作用はなかった。この結果は,本研究で構成した認知過程モデルからの予測とは一致しなかった。また,調査参加者の日常の行動傾向とは乖離していること,45分間の一試行では4つの課題に対する事前知識がないために臨界点の前提となる課題の先延ばしが生じにくいこと,課題に取り組む中で外乱が発生しないために当初のプラン通り順調に課題を遂行していくといった複数の問題点が見出された。 これらの問題点を踏まえた研究デザインに再構成し,研究仮説の実証的な検証をするために利用できる時間が限定されていたこと,さらに,時期的に調査参加者のリクルートにも支障をきたしたため,研究期間の延長を申請し,令和元年度に本研究課題の中核的な実験を実施するに至った。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
4: Progress in research has been delayed.
Reason
平成30年度は,大学生を対象として,行動が変化する瞬間として課題を取り組み出したタイミングと課題遂行をあきらめたタイミングの2つ臨界点(Tipping Point)に注目し,この行動の臨界を引き起こす原理をプロスペクト理論の参照点と価値関数によって構成される認知過程モデルの精緻化と追加的な実証研究を行った。しかしながら,その結果は,構成した認知過程モデルおよび実験デザインの再検討が求められるものであった。 認知過程モデルおよび実験デザインを再構成し,研究仮説の実証的な検証をするために利用できる時間が限定されていたこと,さらに,時期的に調査参加者のリクルートにも支障をきたしたため,研究期間の延長を申請し,令和元年度に本研究課題の中核的な実験を実施するに至った。 以上のことから当初計画より遅延している。
|
Strategy for Future Research Activity |
令和元年度は,平成30年度に実施できなかった追加的実証研究を推進する。令和元年度に実施した実験でも,多重課題パラダイムを用いて,行動の臨界を引き起こす原理をプロスペクト理論の参照点と価値関数(例えば,自己の課題遂行能力は期限が近づくにつれてインフレーションが発生し,それによって課題着手と遂行のモチベーションが維持される。しかし,ある時点で課題遂行の見通しが立たなくなるとインフレーションは収まり,あきらめにつながる。)によって構成される認知過程モデルの妥当性を検証する。しかし,平成30年度の結果を踏まえて,課題に対する事前知識を獲得させるための練習試行の導入,強制的な締め切り時間の変更(後ろ倒し,前倒し)の導入を行い,課題に対する着手遅延と課題遂行の中断が,実験中に生じるような工夫を施す。また,再生刺激法によって課題のスイッチングや課題目標の下方修正などが現れるか否かについても検討する。これらの自己調整過程は,パーソナリティ特性とも関連していることが予想されるため,これらとの交互作用についても併せて検討する。 また,平成28年度および平成29年度の成果である,(1)着手遅延(着手開始)の認知過程モデルの妥当性と(2) 課題遂行中の課題中断(あきらめ)や結果として不十分な達成だった場合における学習者が行う心的要因(自分の能力,課題の価値づけ,達成目標,等)に対する評価や操作に関する認知過程モデルの検証についての論文を投稿・公開していく。
|
Causes of Carryover |
(理由) 平成30年度に,研究進捗状況に遅延が生じ,本研究課題の核となる実験および分析を十分に実施できなかったことによる補助事業期間の1年延長を申請したため。それに伴い,予定していた学会出張をキャンセルしたり,調査および実験を延期し,調査および実験協力者の雇い上げ時期がずれ込んだりしたため。 (使用計画) 最終年度にあたり,追加的実証研究の環境整備を早急に整えて実施する。主たる支弁は調査および実験協力者の謝金である。また,研究成果発表のための国内学会出張を2件予定している。
|