2016 Fiscal Year Research-status Report
青年期高機能自閉症スペクトラム障害の自己理解をめぐる葛藤への支援プログラムの開発
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16K04366
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Research Institution | Yamaguchi University |
Principal Investigator |
木谷 秀勝 山口大学, 教育学部, 教授 (50225083)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | 自閉症スペクトラム障害 / ASDの自己理解 / 「自己理解」プログラム |
Outline of Annual Research Achievements |
平成28年度は2通りの短期集中型「自己理解」プログラムを実施した。 第一に、2泊3日の短期集中型「自己理解」プログラムをA県において実施した。参加した青年期ASDの当事者は16名(うち女性4名)で、年齢は16歳から28歳であった。全員が専門医によるASDの診断と診断告知を受けていることを参加条件とした。 今回の自己理解合宿の効果に関して、「子どもから青年への移行空間の保証」の重要性が指摘できた。具体的には、自己理解を進める出発点として「過去の自分自身」を肯定的に整理し直すことが重要性であった。この安定感を基盤として、将来の「青年」としての自分自身を見つめる作業を進める過程に意味が生じる。したがって、合宿形式を通して青年としての実体験を共有できる時間と空間が保証されることから、青年期ASDとしての「自分らしい生き方」を整理できる体験につながったと指摘できる。 第二に、新たに思春期・青年期の女性ASDだけを対象としたデイ・キャンプ方式の短期集中型「自己理解」プログラムをB県において2回実施した。参加した思春期・青年期ASDの女性当事者は8名(延べ13名)で、年齢は14歳から21歳であった。参加条件は先のプログラムと同様であった。 このプログラムを通して、「自分らしさを取り戻す」時空間の保証という心理的効果が示唆された。具体的には、女性特有の「煩わしさ」からの解放、女性だから可能な「色々な自分」の表現、ガールズトークに「自分の距離」で参加できる安心感の3要因である。しかしながら、「女性ASDらしく生きる」ための困難さとして、同じ女性ASDにも「自分らしさの表現方法がわからない」不安感の高さ、女性である自分への違和感・嫌悪感との葛藤、一番身近な家族でさえわかってもらえない不全感の3要因であることが示唆された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
学会開催等の用件もあり、当初計画よりもプログラム実施回数は少ないが、2通りのプログラムの実施を通して、成長の移行段階にある青年期ならではの自閉症スペクトラム障害が抱える葛藤を明確にすることができた。また、女性の自閉症スペクトラム障害へのプログラムを通して、女性が抱える心身の不安症状の高さと性そのものへの葛藤の強さが理解できた。したがって、こうした視点を通して、平成29年度のプログラムのさらなる充実を計画することが可能となっている。
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Strategy for Future Research Activity |
今後の計画として、次の2点を重視しながら進めていく。第1に、従来からのソーシャルスキルを主体とした自己理解プログラムだけでなく、ライフスキルやソフトスキルといった心身の健康管理や余暇支援も含めたレジリアンスの視点を取り入れたプログラムを検討したい。第2に、女性の自閉症スペクトラム障害に対する基本的な支援のあり方に関しても、検討を重ねたい。
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Causes of Carryover |
本年度は学会開催等の用件のため、プログラムの実施回数が予定回数よりも下回ったために、それぞれの経費に余剰が生じた。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
次年度は本来の計画と合わせて、新たなプログラムの実施を計画しているために、繰り越しが必要となる。既に、東京都において本プログラムを実施することが決定している。さらに、女性の自閉症スペクトラム障害へのプログラムのさらなる充実も決定している。
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