2017 Fiscal Year Research-status Report
青年期高機能自閉症スペクトラム障害の自己理解をめぐる葛藤への支援プログラムの開発
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16K04366
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Research Institution | Yamaguchi University |
Principal Investigator |
木谷 秀勝 山口大学, 教育学部, 教授 (50225083)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | 青年期自閉症スペクトラム障害 / 自己理解プログラム / 女性ASDへの支援 |
Outline of Annual Research Achievements |
本年度は、福岡市(なかにわメンタルクリニックと福岡市自閉症児者親の会高機能部会との協力:7月22日~23日)、東京都(東京学芸大学の藤野博研究室との協力:8月4日~6日)愛知県(南知多町日間賀島:NPO法人アスペ・エルデの会との協力:8月16日~19日)、下関市(なかなみメンタルクリニックとの協力:8月25日~27日)において、計38名の中学生から青年期までのASDを対象とした短期集中型「自己理解」プログラム(合宿形式)を実施した。同時に、福岡市において、思春期から青年期までの女性ASDを対象としたDay Camp方式の継続的「自己理解」プログラムを3回(延べ計22名参加)実施した。 福岡市と下関市で実施したプログラムでは、抑うつと不安症状の効果測定として、STAIとBDI-Ⅱを参加者に実施した。その結果として、プログラム前後での統計的な変化は見られなかったが、プログラムに参加する対象者の場合、抑うつ状態よりも不安症状が高いことが示唆された。そこからは「自己理解」が深まる過程で、自己のあり方をめぐる葛藤が高まることが推測された。 また、過去に「自己理解」プログラムを経験した対象者と初めてのプログラム経験者(多くが思春期から前青年期)の場合には、経験者の言動が重要なモデルとなることにより、初めての経験者の「自己理解」への導入がスムーズになりやすいことが示唆できた。 今後の課題としては、今年度からプログラムを始めている女性ASDを対象とした「自己理解」プログラムの活動からも、従来注目されることが少なかった女性ASDが潜在的に抱えている心身の不安症状への理解と支援が重要であることが理解できた。したがって、来年度も女性ASDを対象としたプログラムの拡充を検討したい。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本年度は、「研究実績の概要」からわかるように、様々な関係機関との協力の元に「自己理解」プログラムの実践を進めることができた。その結果として、様々な形式での「自己理解」プログラムの実践を試行することができただけでなく、若手の臨床心理士や大学院生の協力もあり、今後も継続的に「自己理解」プログラムを実施することが可能になっている。 また、新たな視点として、女性ASDを対象とする「自己理解」プログラムの実践からも、これまで研究されていたASDが抱える抑うつ状態への対応と同時に、社会適応している青年期ASDが抱える不安症状への対応が重要だと考えられる。その点から判断しても、従来からの社会適応を目指すプログラムよりも、この「自己理解」プログラムが目標としているライフスキルやソフトスキルの獲得が重要であることが指摘できる。
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Strategy for Future Research Activity |
来年度に向っては、次の3点が重要な課題だと考えている。 第1に、効果測定に関する課題がある。今回の「自己理解」プログラムでは、短期集中型の形式を取るために、プログラム前後での効果はほぼ見られない。その一方で、多くの参加者が継続的に参加することからも、長期的な視点から効果測定を行うことが重要だと考えている。 第2に、不安症状への理解に関する課題がある。先に述べたように、抑うつ状態以上に、不安症状が強いことが示唆されている。特に、女性ASDの場合には、その不安症状が対人関係だけでなく、心身反応にも顕在化する可能性が高い。それだけに、二次障害(内在化障害)への予防的な視点からも、こうした不安症状の特徴を精査するとともに、その予防的なプログラム作成も重要になってくる。 第3に、新たな「自己理解」プログラムの冊子の作成が課題である。以上述べてきた課題からわかるように、ASDの年齢、性別、プログラム参加の有無、二次障害のリスクの問題などに柔軟に対応できるように、複数の形式での「自己理解」プログラムの冊子を作成することが重要である。
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