2016 Fiscal Year Research-status Report
実行機能と模倣抑制訓練による個人的苦痛と共感過覚醒低減効果の検討
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16K04378
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Research Institution | Seitoku University |
Principal Investigator |
佐伯 素子 聖徳大学, 心理・福祉学部, 教授 (80383454)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2020-03-31
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Keywords | 共感性 / 感覚過敏性 / 否定的情動性 / 情動伝染 |
Outline of Annual Research Achievements |
共感は向社会的行動を動機づけたり,共感によって他者情動理解が進むと考えられている。しかし,臨床場面においてはクライアントの情動表出の知覚によって自動的に起こる共感は逆転移による行動化や共感過覚醒による共感疲労をもたらす危険性があると考えられる。近年の研究の知見から,実行機能によるトップダウン処理や模倣抑制による視点取得能力の向上が共感過覚醒や個人的苦痛を調節することが示唆されている。それらによって共感疲労や逆転移による行動化を防止することができると考え,これらを検討することが本研究の目的である。共感には情動性などの遺伝的要因による個人差も示唆されており,共感の個入内要因が調節効果に影響を及ぼす点を考慮する必要もある。そこで,平成28年度では共感性に関わる特性について検討した。 特性に関しては,否定的情動性と感覚感受性を取り上げた。共感性の中でも個人的苦痛,被影響性といった傾向は否定的情動性に重なるとの指摘もある。他者の痛みを観察している間,情動伝染が強いと自己報告した人にものまね(motor mimicry)をもたらす脳領域の活動や自己の主観的な痛みに関わる領域の活動の増加も認められている(Lamm et al.,2006)。また,被影響性は他者の情動に対する並行的所産として位置付けられており,他者情動の伝染の意味合いが強いという(鈴木・木野,2008)。他者の感情に影響を受けやすい人ほど,模倣傾向や身体感覚への敏感さとの特徴との関連も示唆されている(Hatfield et al.,1994)。そこで共感性に関する特性として感覚感受性と否定的情動性をとりあげ,情動伝染および共感性との関連を検証した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
平成28年では,共感疲労・個人的苦痛を含む共感性,情動性などの特性に関する測定尺度の選定を行い,選定した尺度を用いて、質問紙調査を実施した。共感性尺度は,鈴木・木野(2008)よって作成された多次元共感性尺度(MES)を使用することとした。また,他者の感情に影響を受けやすい人ほど模倣傾向や身体感覚への敏感さとの関連も示唆されていることから(Hatfield et al.,1994),高橋(2016)によるHigh sensitive person scale日本語版を使用し,感覚過敏性を測定することとした。情動性を測定するにあたっては,ATQ(成人用気質尺度)の中で取り上げられている否定的情動性を使用することとした。選定した尺度を用いて質問紙を作成し,青年を対象として調査を実施し,データを解析し,日本発達心理学会において公表した。 また,情動的共感と模倣傾向との関連や認知的共感と目や視線といった非言語的情報の理解との関連を検証するために,実験および質問紙調査の準備を行っている。平成29年度に実施する実験に必要となる脳活動測定機器NIRSを購入し,操作方法の確認とテスト試行に着手している。加えて,本研究における人権の保護及び法令等の遵守への対応をするために平成29年度より実施する予定の実験について人権保護の観点から吟味し,所属機関の倫理委員会に申請した。
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Strategy for Future Research Activity |
平成29年度では,他者の視点取得が他者と自己表象の共有を制御する可能性を検討するために,模倣抑制課題と実行機能の測定課題を選定し,個人的苦痛と共感過覚醒との関連を検証することにある。また,その結果の一部を学会等にて公表していく。 まず,模倣抑制および実行機能に関する実験協力者を募集し,模倣課題、実行機能測定課題の作成を行う。課題作成次第,協力者に対して予備実験を行い,適宜課題の修正を行う。所属機関の倫理委員会に提出した申請書の承認がおり次第,脳領域の血流変化に関する測定も含めた本格的な実験に着手していく。申請書の不備等あるときには適宜修正していく。また,個人的苦痛,共感過覚醒に関する質問紙調査を実施する。
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Causes of Carryover |
物品を予定していた金額よりも安価に購入できたことや収集したデータ入力や統計処理を当初予定していた人数よりも少ない人数の協力者によって行うことができたため,その差額が生じた。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
今年度実施予定の実験補助や実験協力者への謝金等として使用する。
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