2016 Fiscal Year Research-status Report
刑事裁判に付された少年に対する判決前調査制度の構築に向けた研究
Project/Area Number |
16K04390
|
Research Institution | Komazawa Women's University |
Principal Investigator |
須藤 明 駒沢女子大学, 人文学部, 教授 (20584238)
|
Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
岡本 吉生 日本女子大学, 家政学部, 教授 (20315716)
丸山 泰弘 立正大学, 法学部, 准教授 (60586189)
|
Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2019-03-31
|
Keywords | 情状鑑定 / Holistic Defense / Forensic Social Work / 治療的司法 / 司法と行動科学 |
Outline of Annual Research Achievements |
研究メンバーによる9回の研究会を行ったほか,日本弁護士会その他の研究会にも参加し,少年の刑事事件における課題を理論面と実務面の双方から検討した。その結果,家裁段階で作成された少年調査票や鑑別結果通知書の活用が裁判員裁判では必ずしも十分ではないこと,そのために成人の刑事事件と同様に犯行態様の悪質さといった外形的な事情に重きを置いた判決になりやすいこと,したがって,情状鑑定などの人間行動科学の視点を導入する必要性があることが明確になった。 情状鑑定の事例検討では,弁護士からの依頼による私的鑑定であっても,鑑定結果が的確であり,さらには専門家証人として公判廷で説得力のあるプレゼンテーションを行っていければ,判決の中で引用される可能性が高くなると考えられた。また,弁護士との有機的な協働・連携が図られると,鑑定のプロセスの付随的な効果として被告人少年に更生へ向けたポジティブな変化を促す治療的作用が生じることが認められた。 アメリカ出張では,フィラデルフィア市のFederal Community Defender Office及びニューヨーク市のThe Bronx Defendersへの各訪問,心理学を専門とする大学研究者とのミーティングなどを行い,若年者の刑事事件における司法ソーシャルワーカーや臨床心理学者のかかわり,科学的知見の活用状況を調査した。ニューヨーク市では,弁護士,ソーシャルワーカー,調査員などが一つのチームを組んで,被告人へのアドボカシー活動を実践し,その実績を積み上げてきていること,また,司法ソーシャルワークの理論的体系化が進みつつあることを確認できた。ニューヨーク市周辺が季節外れの大雪に見舞われるというアクシデントもあって心理学者へのインタビューは一部しか実現できなかったが,脳科学の知見が刑事司法で重視されつつある実情を把握できたなど,多くの収穫が得られた。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
平成28年度は,「刑事裁判事例の検討」と「アメリカにおける判決前調査の実情調査」の二つを柱に研究を行う計画を立てたが,ほぼ予定通り行うことができた。事例検討については,事例の検討数が想定よりもやや少なかったが,内容面は充実していたと考えている。一方,アメリカ出張では,3月中旬にもかかわらず,季節外れの大雪に遭ったため,一部ミーティングをキャンセルすることになった。これに伴う未調査の部分は,今後,メール若しくはスカイプなどを利用して補足的に調査していきたい。
|
Strategy for Future Research Activity |
平成29年度は,引き続き裁判事例の検討を行うが,特に情状鑑定を行った事例を重点対象とする。また,ドイツに出張し,18歳以上21歳未満の青年層に対する少年裁判所法の適用を巡る実情調査を行う。ドイツでは,環境的諸条件を考慮して行為時における道徳的及び精神的発達の観点から少年と同等視できる場合には少年裁判所法が適用されている。その判断のために審判補助者という専門職制度があり,その中で科学的知見がどのように活用されているかなど,その実情を把握する予定である。我が国では少年法の適用年齢を巡る議論が行われており,時宜に叶った出張になると考えている。このドイツ出張後に,9月13日~16日の日程でウェールズ・カーディフ市で開催されるヨーロッパ犯罪学会にも参加し,日本の刑事司法の実情と行動科学のかかわりについて研究発表する予定でいる。
|
Causes of Carryover |
分担研究者の丸山泰弘が所属する大学内の資金でロンドンに短期留学していたため,アメリカ出張の航空運賃がロンドンとニューヨーク間となり,想定よりも費用がかからず,次年度使用額が生じた。
|
Expenditure Plan for Carryover Budget |
平成29年度は,当初の予定であったドイツ訪問のほか,その後にヨーロッパ犯罪学会(ウェールズ・カーディフ)に参加する予定であり,その参加費用等に充てていきたい。
|