2016 Fiscal Year Research-status Report
過去と未来の記憶における社会性の基盤となる脳内機構
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16K04423
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Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
月浦 崇 京都大学, 人間・環境学研究科, 准教授 (30344112)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | 記憶 / 社会的認知 / 機能的磁気共鳴画像 |
Outline of Annual Research Achievements |
社会的存在であるヒトの記憶は,社会的文脈との相互作用によって影響を受ける.しかしながら,これまでの研究ではヒトの記憶における社会的文脈からの影響を考慮せず,主に実験室ベースでの実験からヒト記憶のメカニズムを研究するアプローチがほとんどであった.本研究では,先行研究においてこれまで考慮されることが少なかったヒト記憶における社会的文脈からの影響とその神経基盤について,健常者を対象とした機能的磁気共鳴画像(fMRI)を用いて解明し,社会的存在であるヒトの記憶とその神経基盤を明らかにすることを目的とする.
具体的には,過去に体験した出来事に関する記憶である回想記億と,未来に行うべき予定に関する記憶である展望的記憶とに着目し,共感や競争,社会的報酬や自己参照などの社会的文脈と記憶との相互作用がどのような脳内メカニズムと関連しているのかについて,複数の実験的研究から検証する予定である.また,このような社会的場面での記憶が,脳の損傷によってどのような影響を受け,どのように変化するのかについても,脳損傷患者に対する検証によってアプローチしたいと考えている.
これらの研究を通して,ヒトの記憶を過去から未来へと継続する時間依存的な現象として捉え,そのシステムを単に実験室内だけで生起する現象ではなく,社会の中で生活するヒトの心的システムとして捉えることで,現実世界でヒトの記憶がどのように実現されているのか,その生物学的基盤が明らかになることが期待される.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
現在のところ,他者への共感によって変化する記憶とその脳内機構に関するfMRI研究を開始し,ほぼデータの取得が終了した.また,社会的文脈における展望的記憶を担う脳内機構の研究に関しては,当初予定していたfMRI研究のアプローチの前に,外傷性健忘症患者における日常記憶の検証を開始した.fMRI研究で検証できることは,脳の領域と特定の心理過程との相関関係であるのに対し,脳損傷患者への検証ではその因果関係に迫ることができる.そのため,本研究計画を発展的に進めるために,fMRI研究に加えて脳損傷患者への検証を同時に進め,最終的により妥当性のあるモデルを構築したいと考えている.
なお,これまでの具体的な研究成果としては,社会的刺激と自己との関係において生じる感情とその制御機構が,記憶の記銘に与える影響とその神経基盤についてのfMRI研究の成果を国際誌に発表した.また,当該テーマに関する複数の研究成果を,国内の学会にて発表した.具体的な成果については,業績リストに示されている.
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Strategy for Future Research Activity |
今後もこれまでの研究を着実に進めると同時に,社会的文脈でのヒト記憶に関する新しいfMRI実験も開始することを予定している.
具体的には,他者への共感と記憶に関する研究については,これまでに取得したデータの解析を進め,国内外の学会での発表を経た後に,できるだけ早く論文として成果をまとめ,国際誌に投稿したいと考えている.また,展望的記憶に関する脳損傷患者への研究についてもデータ解析を進め,その成果をできるだけ早く発表する予定である.その他,他者との社会的関係性によって影響を受ける自伝的記憶の想起メカニズムに関するfMRI研究について,研究を開始したいと考えている.
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Causes of Carryover |
実験参加者一人当たりに要する実験時間を短縮する工夫を施したことで,1回あたりのMRIスキャンの予約枠で取得できるデータ数が多くなったため,当初の予定よりも少ないMRIスキャナーの予約料金で実験を行うことができた.また,実験の準備がスムーズに進み,当初予定していたよりも予備実験に要する回数が少なくて済んだため,必然的に実験参加者に対して支払う謝金(謝品)が少なくて済んだ.これらの理由のため,次年度使用額が生じた.
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
当該年度において実施した実験に関して,翌年度は国内外の学会での成果発表を予定しているため,旅費に要する金額が増加する見込みである.また,fMRI実験についても引き続き実施するが,当該年度よりも実験数が多くなる見込みのため,スキャナーの利用料および実験参加者謝金として経費を使用する予定である.
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Research Products
(8 results)