2016 Fiscal Year Research-status Report
音韻的作動記憶における系列情報保持を支える時間構造の長期知識
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16K04424
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Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
齊藤 智 京都大学, 教育学研究科, 教授 (70253242)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | 記憶 / 作動記憶 / 音韻的作動記憶 / 長期音韻知識 / タイミング制御 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究の目的は、「音韻的作動記憶を支える長期音韻知識の時間構情報の機能と特徴に関する心理学モデルを構築する」ことにある。ここでは、時間文脈に依存した音韻系列の保持メカニズムが、長期音韻知識に蓄えられた音韻系列の表現様式にも使用されていると仮定している。この前提に加え、「音韻系列の時間構情報は、長期音韻知識として保持され、音韻的作動記憶において運用される」と仮定した。この作業仮説に基づき、まず、ピッチアクセントから生じるリズム構造をもとに、音韻的作動記憶において運用される長期音韻知識の時間構情報の性質を検討する。H28年度には、実験室において長期的知識を形成させ、その過程で、音素配列もリズム構造も同じ系列が繰り返し提示される場合と、音素配列は同じだがアクセントによるリズムの異なる系列が繰り返される場合において、音素系列の長期的知識の獲得過程が異なるのか否かを検討した。具体的には、数字系列を用いたヘッブ反復効果実験によって、長期音韻知識の形成過程を検討した。ヘッブ反復効果とは、直後系列再生の実験中に、同一リストが他のリストの間に挟まれながら繰り返し提示されると、その反復されたリストの系列再生の成績が向上するという現象である。この効果は、我々の長期音韻学習の基盤となるものと考えられている。先行研究においては、こうしたヘッブ反復効果は、時間構造の同じ系列が提示された場合にのみ見られることを示しており、アクセントによる時間構造(リズム構造)の変化もまた、ヘッブ反復効果を減少させるものと予想された。しかし、結果は、リズム構造が異なっても、音素系列の反復によって長期知識が形成されるということを示す驚くべきものであり、ヘッブ反復効果に重要なのは絶対的な時間であり、リズム構造ではないという可能性が示された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
本研究では、音韻的作動記憶を支える長期音韻知識の時間構情報の機能と特徴に関する心理学モデルの構築という目的に向け、3つのステップを設定している。平成28年度には、音韻的作動記憶において運用される長期音韻知識の時間構造情報の性質を明らかにし、特にピッチアクセントから生じる時間構造を検討することを目的としていた。具体的には、ヘッブ反復効果を利用して長期音韻知識の形成過程における時間構造情報とその特徴の音韻的作動記憶への影響を探った。先行研究においては、音素配列もポーズによる時間構造も同じ系列が繰り返し提示される場合とくらべ、音素配列は同じだが時間構造の異なる系列が繰り返される場合において、音素系列のヘッブ反復効果の減少が確認されている。また、アクセント付与による系列のグルーピングは、ポーズによるグルーピングと同程度に、直後系列再生の成績を向上させることが知られており、本研究においては、アクセントによる時間構造(リズム構造)の変化もまた、ヘッブ反復効果を減少させるものと予想していた。しかし、結果は、アクセント付与によるリズム構造が異なっても、同じ音素系列の反復によって長期知識が形成されるということを示すものであった。このことは、ヘッブ反復による長期学習の効果にとって、重要なのは絶対的な時間であり、リズム構造ではないという可能性を示している。この点は、絶対的時間に基づく位置情報の長期的保持を仮定するモデルを支持するものでもあり、理論的に重要な意味を持つ。このように、本年度は予定通りの実験を進めるとともに、理論的に重要な新たな発見があり、予想以上の進展があったと考えられる。
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Strategy for Future Research Activity |
音韻的作動記憶を支える長期音韻知識の時間構情報の機能と特徴に関する心理学モデルの構築という目的に向けて、次年度は、予定通り、時間構造そのものの保持に関する検討を行うとともに、新たに得られた知見をさらに発展的追試によって検討する予定である。平成29年度の最初に、これまでの研究成果を評価し、研究計画を再度検討する。すでに述べたように、予想以上に新しい成果が得られていることから、それらを統合したモデルを提案するために、発展的な実験を実施することになると考えられる。昨年度には、音素配列もアクセントによるリズム構造も同じ系列が繰り返し提示される場合と、音素配列は同じだがアクセントによるリズム構造の異なる系列が繰り返される場合において、音素系列の長期的知識の獲得過程が異なるのか否かを検討した。いずれの場合でも、音素配列が同じではないフィラーの系列についても、アクセントによるリズム構造が異なっていた。そのため、符号化時において、アクセント情報がなんら積極的な機能を持たず、そうした情報が無視される傾向があった可能性がある。この点を検討するため、平成29年度には、フィラーリストが同じリズムで提示される条件を設定し、ヘッブ反復効果におけるリズム構造の影響を検討する。また、ここまでに得られた成果を国際会議において報告し、フィードバックを受け、最終年度における理論化の基盤とする。
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Causes of Carryover |
当初の計画通り実験を実施したが、実験が予定よりも少ない人数で実施できたため、実験に要する人件費が少額となった。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
理論的に重要な新たな知見が得られており、それらのデータを含めた包括的な理論モデルを構築するため、再度確認を含めた発展的追試実験の実施が望まれる。そのための人件費として使用する予定である。
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Research Products
(4 results)