2018 Fiscal Year Research-status Report
脳内神経伝達物質の濃度測定による視覚運動知覚の個人差の解明
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16K04432
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Research Institution | Japan Women's University |
Principal Investigator |
竹内 龍人 日本女子大学, 人間社会学部, 教授 (50396165)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
吉本 早苗 広島大学, 総合科学研究科, 助教 (80773407)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2020-03-31
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Keywords | 運動視 / 視覚的注意 / 空間的注意 / プライミング |
Outline of Annual Research Achievements |
本計画では視覚運動情報処理における個人差の解明を目指している。一昨年度までに行っていた心理物理実験結果及び神経伝達物質の濃度データに基づいた解析から、運動視における個人差が視覚的注意の強度に依存する可能性が生じてきた。この点を明らかにすることが次の研究段階(個人差のメカニズムの解明)へと進むために必要であることから、昨年度に続き本年度は視覚的注意の影響を実験的に検討した。 運動視の課題として、一方向に運動する先行刺激の後に運動方向が曖昧なテスト刺激を提示すると、知覚される運動方向が先行刺激に依存するという視覚運動プライミングを利用した(Takeuchi, et al., 2011)。先行刺激提示後のサッカード直後にドットの輝度を変化させ、テスト刺激の運動方向と輝度変化の有無という二点を回答させる二重課題を行った。空間的注意の効果を調べるために、テスト刺激が提示される位置にドットを提示する条件と、離れた位置に提示する条件をおいた。 先行刺激とテスト刺激の関係が環境座標で定義されている時のみ、テスト刺激は先行刺激と同方向に動いて見える。この条件において、テスト刺激に対して視覚的注意が向いている場合はプライミングの知覚確率が上昇した。この上昇は、先行刺激とテスト刺激の間の時間間隔が短い時に顕著であった。つまり視覚的注意は環境座標における運動統合を促進させることがわかった。その一方で、視覚的注意が向いていない場合にはプライミングが完全に消失した。こうした視覚的注意の効果は、先行刺激とテスト刺激の関係を網膜座標で定義した場合には生じなかった。また、視覚的注意の影響には個人差がみられた。以上の実験結果から、視覚的注意は環境座標における視覚運動プライミングに影響し、さらには視覚的注意のかけ方の違いがプライミング知覚における個人差の要因の一つであると結論づけられる。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
当初より計画が遅れているが、その理由は以下の2点による。 (1)以前に測定した神経伝達物質の濃度と運動視における空間抑制量(心理物理実験により推定)との関係が必ずしも明確には得られなかった。とくに抑制性の伝達物質として機能するGABAの第一次視覚野における濃度が抑制量と相関しなかったことから、先行研究結果(Cook, et al., 2016)は全く再現できなかった。その一方でグルタミン酸と抑制量との間には統計的に有意ではないものの弱い相関がみられたことから、視覚的注意が抑制量に介在している可能性が示唆された(Takeuchi, et al., 2017)。このために、神経伝達物質の濃度データの解析は一端中断し、視覚的注意の操作について検討を開始した。これまでに行った実験では視覚的注意の操作がなかったために、実験でみられた個人差が、運動視の処理様式における違いなのか、あるいは視覚的注意のかけ方に基づく違いなのか、その点を明確に切り分けることができないからである。 (2)当初は計画していなかったものの、視覚的注意を厳密に統制した心理実験を昨年度及び今年度に遂行した。先行刺激の運動がテスト刺激の知覚に影響を及ぼす視覚運動プライミング課題に、テスト刺激提示前に提示したドット輝度の変化検出課題を加えた二重課題を行い、視覚的注意の効果を推定した。その結果、環境座標上においてプライミング刺激を提示した場合、視覚的注意を向けるとプライミングが促進される一方で、注意をそらすとプライミングそのものが消えてしまうことがわかった。またこうした視覚的注意の強度には個人差があることもわかった。この実験はパラメータ数が極めて多く、一人の実験参加者が実験を終了するまでに平均3ヶ月以上を要することになった。そのために、結論を出すまでに今年度いっぱいまで時間がかかった。
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Strategy for Future Research Activity |
視覚的注意が視覚運動プライミングにおける個人差に決定的な効果を及ぼしていることを、今年度の実験により結論づけることができた。これは当初の計画にはなかったものの、個人差の要因を解明する上で重要な知見であると考えられる。 次年度は、当初の計画で検討する予定であったあと二つの運動知覚現象(空間抑制、空間的統合)それぞれにおいて網膜座標条件、環境座標条件を設定した上で、視覚的注意を操作する実験を遂行する計画である。これらの実験を通して、運動視課題の結果は視覚的注意の操作によりどれほど変化するのかを明らかにする。 また当初の計画通り、視覚運動知覚に関与する脳内部位における神経伝達物質の濃度測定を検討している。また同時に、視覚的注意に関連する部位における神経伝達物質の濃度を検討する手法について精査を続ける。この点については当初の計画にはなかったものであるために、注意深く進める予定である。
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Causes of Carryover |
視覚的注意の効果について心理実験を遂行し、その終了までに1年半を要したため、当初の計画であった神経伝達物質の濃度測定実験を遂行できなかった。そのために次年度使用額が生じた。次年度は当初計画の実験を行う予定である。
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Research Products
(5 results)