2018 Fiscal Year Research-status Report
心的辞書機構における意味空間の可視化とそれに基づく漢字学習プログラムの開発
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16K04434
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Research Institution | Tokai Gakuin University |
Principal Investigator |
小河 妙子 東海学院大学, 人間関係学部, 教授(移行) (30434517)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
藤田 知加子 南山大学, 人文学部, 准教授 (70300184)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2020-03-31
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Keywords | 心的辞書 / 教育漢字 / コーパス分析 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究では主に次の二点を目的としている。第一に,人間の認知システムにおける言語知識の集合体である心的辞書の体性化を明らかにすることである。具体的には,本研究では漢字表記語を対象として,意味情報を共有する形態素に着目し,単語の形態素的特性に基づく,多階層からなる心的辞書モデルを構築する。第二に,言語発達的な観点から,語彙獲得に伴って変化する心的辞書における意味的構造の構築プロセスに漢字学習が及ぼす影響について検討することである。 本研究では,言語や概念理解などの認知的発達段階として,基本的な枠組みが形成される小学生と,成人のほぼ完成した段階の大学生の2群に着目している。小学生対象の場合は,調査や実験に用いる言語材料として,学習指導要領で定められる教育漢字1,006字を対象とする。大学生は常用漢字2,136字を対象とする。 平成30年度には,平成29年度に材料表として整備した,主に小学生を対象とする言語材料として,小学校国語教科書(平成26年検定済)に掲載されている単語の特性について検討した結果を論文にまとめ,「読書科学」に公刊した。具体的には,一年生から六年生までの国語教科書をコーパスとして,形態素解析を行い,教科書に掲載されている単語を網羅的に抽出した。教科書に掲載されている文章から単語を抽出するために,形態素解析ソフトUnidic-mecabを使用して形態素解析を実施した。その結果,小学校六学年の教科書に掲載されている全ての文字から,品詞を問わずひらがな・カタカナ・漢字で表記される書字形13,341語を抽出した。これらの単語を対象として名詞・動詞・形容詞・形状詞・副詞の別に単語数を数え,単語出現頻度を報告した。その後,品詞別に単語の出現頻度,使用されている漢字の特性などを検討した。また,先行研究(田中他,2011)で報告された平成16年検定済教科書との比較も行った。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
これまで,主に小学生を対象とする実験や調査のための言語材料を選定するための基準表を作成する作業を終了した。具体的には,小学校で使用される国語教科書(平成26年検定済み教科書)に掲載されている単語から,ひらがな・カタカナ・漢字で表記される書字形13,341語を抽出した。学年別に,教育漢字を含むこれらの単語について,短単位という単語の基準をもとに,品詞ごとに書記素,語彙素などの形態論情報,出現頻度に関する一覧表を作成した。これらの単語材料を用いて,教育漢字およびこれらの漢字を含む単語間の類似性指標を計算論的アプローチによって算出し,人間のデータと比較検討を進めているところである。 これらの単語に関して,「小学校国語教科書に掲載される単語の分析-ラディカルを共有する漢字から構成される単語のファミリーサイズと出現頻度」(小河・藤田・増田, 2019)において,小学校六年間で学習する漢字のラディカル毎の次の5つの特徴について検討した。これらの5つの特徴について,一覧表を作成した。単語ファミリーの成員とタイプ頻度,単語ファミリーの各メンバーの出現頻度,各単語ファミリーの出現頻度,および単語ファミリーの総出現頻度。これらの表によって,漢字学習の初期段階における小学生の発達的観点に基づいた心的辞書の構造を解明するための実験に用いる単語材料を提供することが可能となった。
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Strategy for Future Research Activity |
今後の研究では,次の二点を実施する予定である。(1)多次元尺度法(MDS: multi-dimensional scaling)を用いた調査の実施,および(2)心理実験による意味処理過程の検討,を実施する。 平成31年度には,前年度に引き続き,多次元尺度法を用いた単語間の類似性の検討について,小学校の教育漢字を対象とした研究と,常用漢字を対象とした研究を行う。類似性の指標を算出するために計算言語学的な手法を用いた分析を実施し,教育漢字に関しては,これまでに実施した教科書のコーパス分析の結果を活用する。現在,これらのデータについて,形態素解析ソフトとRパッケージ等を組み合わせた解析システムの環境を整えたところであり,今後,この解析システムを用いて,コンピュータ・シミュレーションを行い,人間の行動データとの比較を行っていく。 また,常用漢字に関しては,国立国語研究所の「現代日本語書き言葉均衡コーパス」(BCCWJ)を利用し,小学校国語教科書を対象とした研究との比較を行っていく。その後,成人を対象とした調査を実施し,小学生対象のデータと同様に,計算論的アプローチによる類似性指標と認知心理学的アプローチによる調査データとを比較する。これらの分析結果を用いて,単語の意味空間の可視化を試みる。
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Causes of Carryover |
研究の進捗がやや遅れているため,学会出張を予定していた経費を使用していない,また,当初の計画では,成人を対象とした調査について,Web調査会社に依頼する経費を計上していたが,研究計画に修正が生じたため,その分を使用していない。今後,大学生を対象とした実験や調査の謝金としての支出を予定している。また最終的には研究成果を国際会議で発表し論文として刊行する予定であり,それらの経費として使用する予定でいる。
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