2020 Fiscal Year Research-status Report
心的辞書機構における意味空間の可視化とそれに基づく漢字学習プログラムの開発
Project/Area Number |
16K04434
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Research Institution | Hirosaki University |
Principal Investigator |
小河 妙子 弘前大学, 保健学研究科, 教授 (30434517)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
藤田 知加子 南山大学, 人文学部, 准教授 (70300184)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | 心的辞書 / 教育漢字 / コーパス分析 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は,主に次の二点を目的としている。第一の目的は,人間の認知システムにおける言語知識の集合体である心的辞書(mental lexicon)の構造を明らかにすることである。具体的には,本研究では漢字表記語を対象として,意味情報を共有する形態素に着目し,単語の形態素的特性に基づく,多階層からなる心的辞書モデルを構築する。第二の目的は,言語発達的な観点から,語彙獲得に伴って変化する心的辞書における意味的構造の構築プロセスに漢字学習が及ぼす影響について検討することである。 本研究のこれまでの実績は,下記の二点である。(1)小学校国語教科書を対象に形態素解析を実施し,漢字の使用状況と単語の属性に関する分析を行った。そこで抽出した漢字から構成される単語の心的属性に関する評定値の分析を行い,「部品を共有する漢字から構成される単語ファミリーにおける心像性特性 -小学校国語教科書に掲載されている単語を対象として-」(小河・藤田,2020)を刊行した。(2)教育漢字に含まれる左右の構成要素からなる漢字を対象として,意味を担う部首を共有する漢字群に対して意味的類似性に関する質問紙調査を実施した。参加者は大学生であった。例えば,「きへん」を左部品に含む漢字である松と板がどの程度意味的に類似しているかを7件法で調査した。これらの調査結果をもとに多次元尺度法を用いた意味的空間の可視化を行った。 現在,これらの調査を継続中であり,今後,言語コーパスに基づいたシミュレーション研究との比較検討を進めていく。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
これまで,主に次の4点を実施した。(1)小学生を対象とする実験や調査のための言語材料を選定するための基準表を作成した。具体的には,小学校で使用される国語教科書に掲載されている単語から,ひらがな・カタカナ・漢字で表記される書字形13,341語を抽出した。学年別に,教育漢字を含むこれらの単語について,品詞ごとに書記素,語彙素などの形態論情報,出現頻度に関する一覧表を作成した。(2)参加者に対して漢字一字(例えば「標」)を提示し,その漢字を共有する熟語群(前漢字を共有する「標準」「標識」など,および後漢字を共有する「指標」「目標」など)について想起した調査結果のデータベース(小河・川上,2006,2007)をもとに,これらの熟語の親密度,心像性,出現頻度の関係について検討を加えた。(3)小学校国語教科書に掲載されている単語を対象として,同一部品を含む漢字から構成される単語群の心像性値をNTTデータベースから参照し,部品を共有する単語群において,心像性の程度が異なるか否かを検討し,漢字における部品の意味情報がその漢字を構成要素とする熟語の心像性に及ぼす影響を明らかにした。(4)大学生を対象に,左右に形態的に分離するタイプの漢字を用いて,左部品を共有する漢字間の意味的類似性に関する質問紙調査を実施した。 現在,この調査に用いる漢字の対象を広げ,意味的類似性データの収集を行っているところである。大学生を対象とする調査であるため,covid-19の感染予防対策の影響を受けて調査時期が遅延していたが,令和3年6月までには完了する予定である。
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Strategy for Future Research Activity |
今年度は,次の二点を実施する予定である。(1)意味的類似性調査から得たデータをもとにした多次元尺度法(MDS: multi-dimensional scaling)による意味空間の検討の継続,および(2)質問紙調査に基づく結果とデータベースをもとにしたシミュレーション結果との比較から,漢字の意味処理過程に関するモデル化を実施する。 令和3年度には,前年度から引き続き,多次元尺度法を用いた単語間の意味的類似性の検討を進めていく。現在,形態的構造に関して構成タイプの異なる漢字を材料として調査を拡大して行っている。また,大学生対象の質問紙調査に加えて,意味的類似性の指標を算出するために計算言語学的な手法を用いた分析を実施する。教育漢字に関しては,これまでに実施した教科書のコーパス分析の結果を活用する。現在,これらのデータについて,形態素解析ソフトとRやPython等を組み合わせた解析システムの環境を整え,国語教科書以外のコーパスを用いたシミュレーションを行い,諸々のパラメータの検討を行っている。今後,この解析システムを用いて,コンピュータ・シミュレーションを行い,意味的類似性調査から得た人間の行動データとの比較を行っていく。 また,常用漢字に関しては,国立国語研究所の「現代日本語書き言葉均衡コーパス」(BCCWJ)を利用し,小学校国語教科書を対象とした研究との比較を行う。その後,成人を対象とした調査等に基づく既存のデータベース等から単語の心理的属性値を抽出し,成人に対しても小学生対象のデータと同様に,計算論的アプローチによる類似性指標と認知心理学的アプローチによる調査データとを比較する。これらの分析結果を用いて,単語の意味空間の可視化を試み,データベース化を行う。
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Causes of Carryover |
次の3点に関して,次年度使用が生じており,その理由および使用計画は下記のとおりである。(1)予定していた国内での出張を伴う研究打ち合わせや国際学会発表を行っていないため,旅費が未使用である。今年度の秋に国内学会での発表を予定しているがオンライン開催の可能性もあり,その場合,旅費は使用しない。 (2)質問紙調査の実施を当初,Web調査会社に委託する予定であったが,代表者および研究分担者の所属する大学の学生を対象としたため,委託費用が未使用である。Web調査会社による参加者募集よりも,研究代表者・分担者の所属機関において質問紙調査・実験の参加者を募集して実施するほうが望ましいため,今年度も継続して参加者への謝金を必要とする。約100名の大学生を対象として,1名につき2時間程度を要する調査のため各2千円分の図書カードで支払う予定である。 (3)その他,研究継続のため毎年必要となる費用として,印刷用紙・プリンタートナー等の印刷費,論文投稿のための英文校閲費,データ保存のためのメディア購入費,郵送費などを使用する予定である。
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