2018 Fiscal Year Research-status Report
楽観主義が符号化処理に与える影響―虚偽記憶と自己選択効果による検討
Project/Area Number |
16K04440
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Research Institution | Kyushu Women's University |
Principal Investigator |
鍋田 智広 九州女子大学, 人間科学部, 准教授 (70582948)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
小野 史典 山口大学, 教育学部, 准教授 (90549510)
中井 靖 宮崎大学, 教育学部, 准教授 (80462050)
具志堅 伸隆 東亜大学, 人間科学部, 教授 (10449910)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2020-03-31
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Keywords | 楽観主義 / 楽観性 / 虚偽記憶 / 符号化 / 自己選択効果 / 学習 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究課題では,示差性を高めることで虚偽記憶の減少が見られるかを検討した。17th Annual Conference of Hawaii International Conference On Education (Optimistic learners more correctly remember sentences than words)において発表した。ここでは,文章不可条件において,付与された文章と記憶するべき単語のフォントサイズを変更し,記憶項目と付与情報とを知覚的に区別しやすいように学習語を呈示した(文章条件)。統制条件として,単語のみを学習する条件を設け,文章条件と比較した。以上の学習語の呈示の仕方を独立変数とした。その操作を除けば,一般的な虚偽記憶のリスト学習パラダイムと再認法を組み合わせた標準的な手続きで実験を行った。すなわち,ルアー語と連想関係にある単語リストを呈示し,学習直後にテスト語を呈示して記憶判断を求めた。実験に先立って参加者の特性的楽観性をJ-OPSを用いて測定した(外山, 2013)。実験の結果,文章で学習した条件において単語で学習した条件に比べて虚偽記憶が少なくなる結果が認められた。すなわち,示差性の高い条件で学習することによる虚偽記憶の減少が認められた。加えて,示差性による虚偽記憶の減少は,特性的楽観性の高い参加者になるほど大きい傾向が認められた。 自己選択による項目の符号化処理の促進が虚偽記憶を低下させるかどうかを本研究課題において検討し,認知心理学会第16回大会において発表した (報酬への動機づけが自己選択効果における誤答に及ぼす影響)。その結果,自己選択をした条件において,強制選択をした条件に比べて符号化処理が促進される効果が認められなかった。その一方で,自己選択によって学習していない単語を誤って再生するエラーの増加が認められた。これらの結果から,この実験においては自己選択によって返って符号化処理が阻害される可能性が示唆された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
現在までに本研究課題においては,示差性を高める情報を付与することによる符号化処理の促進効果が認められること,示差性を強める情報の付与による符号化処理の促進が虚偽記憶を低下させること,加えて,この示差性付与による虚偽記憶の低下は特性的楽観主義の高い個人ほど大きくなる可能性があることを示した。こうした,これまでの研究成果は,鍋田智広 (2016). 特性的楽観性とDRM手続きにおける虚再認. 日本認知心理学会第14回大会,鍋田智広 (2017). 特性的楽観主義が符号化処理に与える影響. 中国四国心理学会第73回大会,Tomohiro Nabeta (2019). Optimistic learners more correctly remember sentences than words. 17th Annual Conference of Hawaii International Conference On Educationにおいて報告している。また,自己選択において符号化処理が促進されるかを,虚偽記憶を用いて検討する研究課題については,自己選択に比べて強制選択で虚偽記憶が低下すると予測したものの,こうした効果が認められなかった。この結果から,参加者が記憶する項目を自己選択することが,必ずしも強制的に選択させられるよりも符号化処理を促進させるとは限らないことが示された。この成果は認知心理学会第16回大会で報告した。この発表を通じて,自己選択による符号化処理の促進を高める条件設定について活発な議論を行った。この議論の踏まえた上で本年度は,自己選択による符号化処理を促進する実験を追加し,成果を蓄積する。本研究課題は,示差性を高める情報を付与することや自己選択を課すことによる符号化処理への影響の検討は学会での報告を4回行っており,成果を挙げて順調に進んでいるといえる。
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Strategy for Future Research Activity |
本研究課題の今後の方向性としては,特性的楽観主義と自己選択効果についての実験を追加して実施すること,及び特性的楽観主義を高める介入についての検討を進めることの2点を行うこと,これまで実施してきた研究の成果を総括する。自己選択効果については,前年度に実施した実験の結果も踏まえた上で,認知心理学会での学会発表の議論で得たアイディアを踏まえて,符号化処理を促進する条件を整備して実験を追加する。具体的には,呈示時間の調整,課題の難易度の操作を行いながら,実験を実施する。既に,昨年度から準備を進めており現在までに実験準備はほぼ完了している。今後は実験の実施と,研究成果のまとめを行い,その成果を論文にまとめて報告をする。特性的楽観主義を高める操作としてはBPS (Best Possible Self)法を用いて検討を行う。BPS法は,参加者に可能自己 (Possible self)を具体的に思い描くことによって,感情の統制可能の認知を高める手法である。このような自己調整の認知を高めることが特性的楽観主義を高めることに繋がるのかを実験的に検討する。こちらについても,参加者の確保や実験手順の検討など既に準備はほぼ完了しており,実験を実施して成果としてまとめる。その内容は,本年度に開催される学会で報告する予定である。また,発展的な研究として,昨年度ふたつの実験を実施した。ひとつは,教示によって符号化処理が促進されるかどうかを検討する実験であった。この研究成果は,認知心理学会で学会発表する。また,協同学習と符号化処理の関わりについて検討した実験については,European Congress of Psychologyで学会発表をする。
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Causes of Carryover |
次年度使用額が生じた理由として次のことが考えられる。昨年度は予備調査・予備実験と本実験を含めて参加者数を見積もったが,本実験の参加者数が少ない状態で十分な結果を得ることができた。必要以上に参加者数を増やすことは実験計画の性質上,適切ではないと考え,実験を終了した。そのため,印刷費用や参加者・実験者への謝金が少なくなった。成果報告のための国際学会を北米からハワイに変更したため,旅費が計画よりも少額となった。十分な実験成果が得られているので,本年度は,これらの実験の成果を,国内外での学会発表をするための旅費として使用する。また本研究課題でこれまで得られてきた研究成果を詳細に総括し,論文化するためにソフトウェア等の設備に使用する。
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Research Products
(12 results)