2017 Fiscal Year Research-status Report
青年の教育社会史―栃木県南部の新制中学校や高等学校定時制課程に焦点をあてて―
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16K04483
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Research Institution | Sakushin Gakuin University |
Principal Investigator |
小林 千枝子 作新学院大学, 人間文化学部, 教授 (10170333)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2020-03-31
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Keywords | 定時制 / 新制中学校 / 青年 / 地域 / 中等教育 |
Outline of Annual Research Achievements |
平成29年度には、大きくは次の二つの研究成果を得た。一つは、申請者が所属する小山歴史研究会にかかわりながら進めた研究である。栃木県南地域の歴史的背景や産業構造の変化等、教育史研究とかかわる重要なことがらを把握できたという点でも、そのことの意義は大きかった。研究会の一員として論考を発表する機会も得られるようになり、栃木県南をフィールドにして研究する基盤ができてきたと考える。もう一つは学校教育が地域にかかわることの可能性や課題といった点に目を向けたことだった。その直接的な契機になったのは、「地域と教育の会」という全国組織の一員として栃木県南地域周辺の全国大会を現地実行委員として開催したことだった。 前者の研究成果としては、小山歴史研究会が私家版として作成した『小山の昭和史』に、戦後発足した新制中学校や新制高等学校、さらに戦時下の小学校や中等学校の詳細を把握したうえで、いくつかの論考を掲載することができた。また、同研究会には中学校や高等学校の教員だった会員が多く、そういう会員から、学校の周年誌やアルバムなどを拝借することもでき、史料収集という点でも有益であった。「栃木県南教職史・生活史シリーズ2」として、同研究会の一員より、戦時下の小中学校の様子を書いてもらい、編集することもできた。さらに、栃木市・小山市・下野市・下都賀郡といった栃木県南地域をフィールドにした写真集作成に執筆者としてかかわることもできた。 後者についは、申請者の栃木県南の戦後教育史という研究フィールド設定が必然的にはらむ問題、すなわち、栃木県南には、茨城県、埼玉県、群馬県との隣接地にあることから、県という近代行政の区割りからはみ出す問題があるとわかった点が大きい。そうした活動を展開した人物に田中正造がおり、栃木県に隣接する埼玉県の一小学校で田中正造研究を教育活動に取り入れていることなども把握できた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
もともとの研究計画の重要事項にしていた小山市立間々田中学校の生徒会誌『ともしび』を借用できないでいることから、予定していた中学生自身の心性分析ができなかったことが大きい。 また、仕事が集中していた年末年始ごろを境に右手中指の腱鞘炎が悪化し、さらに右肩痛も生じた。パソコンのキーボード操作をすると症状が悪化し、パソコン操作による資料整理等ができなくなった。読む作業に支障はなかったので、資料調査は続けたが、治療に時間がとられ、精神的にも後ろ向きになる傾向が生じた。 しかし、治療の成果が出てきたのか、かなり快方に向かってきているので、この点ゆえ研究の遅れは今後、改善できると考えている。
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Strategy for Future Research Activity |
小山市立間々田中学校に保存されている生徒会誌『ともしび』は、ほぼ全号そろっていることから、これを通して戦後初期の時点から高度成長期を介して中学生の進路や心性の変化を具体的に読みとることができるという点で大変貴重である。小山歴史研究会の会員の一人が同中学校の教員経験者で、現校長とも親交があるように聞いているので、その方を介して入手する方策をまずは探りたい。栃木県下の高等学校の成立と展開を、統廃合や定時制高校の全日制化などを表にする形で明らかにしたい。この作業は基礎作業であり、史料等は収集してきているので、できるだけ早くやり遂げたい。栃木県立小山高等学校の定時制課程については、資料整理をして学会発表も行ってきているので、平成30年度中に詳細を論文としてまとめたい。また、高度成長期を経るまで昼間定時制高校として存在していた足利西高等学校について、史料調査を進めてきている。さらに調査研究を進めることにしたい。 申請者が理事として所属する教育目標・評価学会が2019年に創設30周年を迎えることから、30周年記念本の出版を計画している。申請者は、「地域のつながり」に焦点をあてた研究論文を、この記念誌に掲載することになっている。この学会活動の一環として次を計画している。栃木県に隣接する埼玉県加須市のある小学校では、とくに総合的な学習の時間を利用して、渡良瀬遊水地や田中正造に焦点をあてたフィールドワークや調査研究を取り入れている。この小学校の地域とのかかわりが地域社会にどのようなつながりをもたらしているのかを明らかにしていきたい。 本研究の中心テーマは栃木県南地域に焦点をあてた「青年の社会史」である。この点にかかわることとして、田中正造と渡良瀬遊水地問題に連なる青年の動きが、戦前から戦後にまでわたってみられることが明らかになってきたので、この点についても調査研究を続けたい。
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Causes of Carryover |
調査が十分にできなかった。とくに大学の授業のなくなる2~3月に前期の右指腱鞘炎と右肩痛により、パソコン操作を控えるようになり、文献を読む作業にとどまることになった。治療のために時間もとられ、研究時間そのものも十分に取れなかった。
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