2017 Fiscal Year Research-status Report
Project/Area Number |
16K04491
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Research Institution | National Museum of Japanese History |
Principal Investigator |
樋浦 郷子 国立歴史民俗博物館, 大学共同利用機関等の部局等, 准教授 (30631882)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | 教育史 / 近代史 / 近代日本教育史 / 学校史 / 身体 / 儀礼 |
Outline of Annual Research Achievements |
平成29年度には第一に、教育史学会シンポジウムで「教育勅語と植民地支配」という発表を行った。ここでは、とくに教育勅語謄本の敗戦後(解放後)の扱われ方の「内地」と旧植民地との相違に着目し、一般的には「同化」「皇民化」と叙述されてきた事象が、現地からみればどれほど実態が相違するものであるか、ということに迫った。 第二に、前年度に終了しなかった宮内庁公文書館における『御写真録』の通時的、悉皆的調査を9月まで継続した。植民地期台湾と朝鮮への「御真影」下賜については一通り終了し、南樺太、「満洲」等へは部分的な調査となった。ここまで計画どおり秋までに行い、その成果を教育史学会第61回大会において「植民地期台湾の御真影」というタイトルで発表した。この発表の調査を行う過程で、1923年の摂政皇太子台湾行啓が現地社会と初等学校に与えたインパクトがことのほか大きく、それが「御真影」の下賜校選定と無関係ではないことが判明した。 この科研期間中には、継続的に「御真影」下賜をめぐる帝国の「体系」を考察、検討してきた。今年度は、なかでも台湾に焦点を当てることによって、前年まで研究してきた朝鮮への下賜体系とはまた異なる様相を、ある程度明らかにすることができたと考えている。 さらに、8月には韓国釜山近郊の初等学校および諸博物館において、2018年3月には台湾の嘉義郡の初等学校(国民小学)において、残存する植民地期のモノ(鏡、机、旗、ラッパ、奉安庫、アルバム等)の調査を実施した。また、台湾の国立高雄師範大学等において現地研究者との研究交流を実施した。これらの調査結果は、最終年度の研究成果に取り入れる予定である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
平成29年度においては、以下のように研究発表を実施した。 (1)研究発表「教育勅語と植民地支配」、教育史学会シンポジウム、御茶の水女子大学、2017年6月10日。 (2)研究発表「植民地期台湾における天皇崇敬教育」、教育史学会第61回大会、岡山大学、2017年10月8日。 これらを通じ、またこれまでの朝鮮を対象とする研究と合わせることによって、帝国内の御真影下賜を、朝鮮と台湾についてはある程度体系的に分析・検討でき、台湾と朝鮮の植民地化される過程の相違などが間接的に反映されていることが明らかになった。 さらに、8月には韓国釜山近郊の初等学校および諸博物館において、2018年3月には台湾の嘉義郡の初等学校(国民小学)において、残存する植民地期のモノ(鏡、机、旗、ラッパ等)に関わる複数回の調査を実施できた。
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Strategy for Future Research Activity |
平成30年度は、最終年度にあたる。そのため、これまでの研究の整理ととりまとめの仕事を優先して行う予定である。第一に、朝鮮人青年(男女ともに)にとっての「戦時動員」の意味が、どのように「内地」と相違するものであったのかという点につき、平成28年度の研究発表2本(「1940年代朝鮮における青年の動員」、教育史学会第60回大会、横浜国立大学、2016年10月2日、「帝国日本における神社・学校・身体―教育史、体育・スポーツ史を架橋する試み―」、國學院大学たまプラーザキャンパス、2017年3月23日)の内容を統合し、論文としてまとめる予定である。これを、平成30年度前半を目途に実施する。 第二に、平成29年度を中心に行った台湾や「内地」への御真影下賜に関する研究を、朝鮮、との比較の視点を交えつつ論文とする。これは、可能な限り平成30年度後期に実施する。 第三に、上述の作業を通じ、今後の課題につながるものを明確化する。「支配の逆機能」としての「民族性」があらわになる局面を省察しようというのが本研究の初発の問題意識である。これまでの2年間において、戦時期に強化される国民儀礼の観察のなかで、とくにそれがあらわになるのではないかと仮説的に考えてきた。この仮説的な考察を通じ現在は、とくに身体の動きやモノを社会的歴史的文脈から読み解くことを、東アジア全般に視点を広げて行ってみたいと考えるに至っている。このことにつき、研究成果をふまえつつ問題意識として練り上げ、今後につなげたい。
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