2016 Fiscal Year Research-status Report
1720年代から1820年代フランスにおける市民教育論の形成に関する研究
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16K04505
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Research Institution | Doshisha University |
Principal Investigator |
越水 雄二 同志社大学, 社会学部, 准教授 (40293849)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2020-03-31
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Keywords | フランス市民教育論 / ルソー / カンパン夫人 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、1720年代から1820年代のフランスにおける市民教育論の形成を、18世紀の著名な教育論を〈市民〉の形成という観点から再解釈する作業と、これまで日本では知られていない19世紀の文献からも新たに解明する作業とを通じて考察する試みである。2016年度における二つの作業の成果を以下にまとめる。 まず、18世紀の教育論としては、ルソーの著作を検討した。彼は『社会契約論』(1762)で、政治体の主権に参与する構成員を〈市民〉とした。同年に刊行した『エミール』では、古代スパルタやローマ市民の国家と完全に一体化した在り方を基準にして、もはや〈市民〉は存在しえないと論じつつ、思考実験として当時の社会でも可能な道徳的人間の形成を説いた。それは近代社会における〈市民〉の理想を追求した内容と解釈できる。しかし、女子教育に関しては、女性を男性に隷属させる主張であると同時代人から批判も受けた。こうしたルソーの教育論が〈市民教育論〉の観点から全体としてどのように解釈できるかは、刊行直後から革命期へかけての受容の検討も含めて、引き続き考察していくこととする。 次に、19世紀の文献としては、カンパン夫人Madame Campan(1752-1822)による次の2作品を解読し、〈市民〉の育成に関連する内容を検討した。①『少女二人の友情の手紙』(1811)。②『教育論』(1824)。いずれも日本ではこれまでに研究されていない作品である。前者は、夫人がナポレオンから運営を任され、国家の功労者の子女を指導した「レジョン・ドヌール教育舎」の生徒間の書簡という設定で、学習と人間性の涵養、学校生活と規律などを論じている。後者は、寄宿式女学校での教育内容と指導方法を提示し、公教育と道徳の在り方にも論及している。貴族社会を背景とする女子教育論にも、革命期の思想からの影響が認められるかについて分析を続けていきたい。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
全体として当初の研究計画に沿って作業を進められている。 19世紀前半に広く読まれたカンパン夫人の教育論は、専ら貴族およびブルジョアの子女を対象とするものである。その内容を検討することによって、ルソーの教育論の中でも特に女子教育に関する内容を、18世紀後半からフランス革命を経て19世紀へと至る歴史的文脈において解釈する際の判断材料が得られたと思う。 18世紀半ばのルソーの教育論にも、19世紀初期のカンパン夫人の教育論にも、刊行当時の読者から批判を受けた性差別的主張は確かに存在した。しかし、そうした側面を抱えながらも、アンシアン・レジームから革命とナポレオンの時代を経た社会の変容を背景にして、女子教育論が漸進的に変化していた跡も明らかにできるならば、意味ある研究成果と言えよう。そのような女子教育論の変化を、フランス革命の前後における〈市民〉概念の変化と重ねあわせて考察することが、本研究にとって大きな課題となる。
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Strategy for Future Research Activity |
ルソーの教育論を〈市民教育論〉の形成という観点から再解釈するにあたっては、ルソー生誕三百周年を機に多数発表された研究成果を可能な限り摂取していくように努める。それと並行して、今後、18世紀の著名な教育論としては、ディドロ、エルヴェシウスなどの作品を検討していくこととする。 他方、19世紀前半の〈市民教育論〉の形成を探る史料として、今後もカンパン夫人の作品の分析を続けるのと同時に、新たにギゾー夫人による作品の読解にも着手する計画である。
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Research Products
(1 results)