2017 Fiscal Year Research-status Report
学習における子どもの自己肯定化への介入としての授業-教室実践の活動理論的分析-
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16K04508
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Research Institution | Kansai University |
Principal Investigator |
山住 勝広 関西大学, 文学部, 教授 (50243283)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | 自己肯定化 / 授業実践 / 拡張的学習 / 自主性 / 協働学習 / 仲間づくり / 活動理論 / 活動システム |
Outline of Annual Research Achievements |
本年度は、学習における子どもたちの自己肯定化への介入という観点から、先進的で卓越した価値をもつ事例として選定した、岐阜市立長良小学校の教育実践に関して収集してきた詳細なデータについて、その整理と選択を行い、焦点となるデータの確定を進めた。そして、活動理論と自己肯定化理論の接合を通して構築した、理論的な枠組みや概念システムを用い、確定されたデータに対する分析を順次行い、学習における子どもたちの自己肯定化に介入するための方法論的な知見として、次のような3点を明らかにした。 第1に、授業実践と学習活動のシステムに、子どもたちの自己肯定化への介入を組み込んでいくことは、自己概念を脅かす社会システムであるような教室実践から自己をかばい、守り、肯定していくような自己システムの生成を可能にする。 第2は、長良小学校の「朝の会」「帰りの会」における子どもたちの自己肯定化への介入の実践は、集団的活動システムのモデルを用いれば、授業と学習の活動システムに組み込まれた、子どもたちの自己肯定化に介入するための「道具」ととらえることができる。こうした「道具」に媒介された授業実践と学習活動のシステムは、学習の「対象」を拡張的に変革させることに成功している。つまり、そこでの活動システムの「対象」は、伝統的な学校教育に支配的な「成績」「序列化」「競争」など、子どもたちに対する評定・評点から、「自己実現」の喜びをもち、それゆえに「自己の価値」を見つけていくような自己肯定化へと、移り変わっている。 第3に、教師と子どもたちが協働する活動システムの「対象」の変革と、それによって生じる活動システムの新たな創造は、活動の「主体」による「拡張的学習」を通してなされることになる。学校における子どもたちの「拡張的学習」は、ひとりひとりの子どもが教師や仲間と協働して学習の活動システムを自主的に創造してくような学習である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究は、研究の目的を達成するために、学習における子どもの自己肯定化に関する理論的・概念的な枠組みの構築を果たしながら、活動理論と自己肯定化理論の両方から見て先進的で卓越した価値をもつと判断できる教育実践事例を取り上げ、継続的かつ綿密な参与観察とエスノグラフィックな調査研究を行い、詳細なデータを収集して実証的な分析を実施・推進するものである。 現在までのところ、参与観察とエスノグラフィックな調査研究により収集してきた詳細なデータから、焦点となるデータを事例として選定・確定し、順次、分析を進めてきている。また、事例の分析にあたっては、分析を媒介する理論的な枠組みと概念システムを、活動理論と自己肯定化理論を接合することによって構築してきている。 このように、研究のすべての側面において、これまで計画通りの成果を達成できており、研究は順調に進展している。
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Strategy for Future Research Activity |
平成30年度は、3年間の研究成果を全体的にまとめ、理論的研究と実証的研究を高度に結合して、学習における子どもの自己肯定化に介入するための方法論的な知見を明らかにしていく。 そのさい、現在までの研究で明らかにしてきた次の点が今後の分析の焦点となる。つまり、活動理論と自己肯定化理論を接合する観点からすれば、自己肯定化への介入を必然的に伴う、学校における変革的な授業実践は、子どもたちの「拡張的学習」として実現される、という点である。こうした「拡張的学習」とは、自己システムの肯定化を促進・支援することのできる学習活動の社会的システムを、子どもたちが自身で自主的に協働して創造していくような学習であり、そこにおいてこそ、子どもたちの自己肯定化への介入としての変革的な授業実践は実質的に実現されると考えられる。そうした介入は、子どもたちが自らの学習への動機づけや積極的な関与や価値づけ、そしてエージェンシー(行為の主体性)の感覚を自ら高めていくという自主性と自己教育を、子どもたち自身の中に呼び起こすことに焦点化するものである。 以上の推進方策のもと、得られた研究成果については、英文および和文の査読付国際・国内学術雑誌への投稿を行う。
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Causes of Carryover |
(理由) 予定していた英文校閲の分量が実際に若干下回ったため、次年度使用額が生じた。 (使用計画) 次年度使用額である3,165円は、当該年度以降分として請求した助成金である900,000円と合わせて使用する。使用計画としては、次年度使用額を旅費に追加して使用する計画である。
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