2016 Fiscal Year Research-status Report
冷戦期におけるロックフェラー財団の対日英語教育支援:IRLTとELECの比較検討
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16K04517
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Research Institution | Aichi Konan College |
Principal Investigator |
広川 由子 愛知江南短期大学, その他部局等, 講師 (00759475)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | ロックフェラー財団 / 対日英語教育支援 / IRLT / ELEC |
Outline of Annual Research Achievements |
平成28年度は、冷戦期のロックフェラー財団の対日英語教育支援の前史として、以下の三点の研究を実施した。第一に、はじめての新制中学校用の英語教科書Let’s Learn English全3巻(文部省著作)の編纂過程を解明した。理由はLet’s Learn Englishの編纂過程にロックフェラー財団の関与が看取されるからであり、占領期に遡って研究を行なう必要があると判断したためである。結果として、Let’s Learn Englishの編纂過程において、CI&E側が文部省にどのような指示を出していたかが明らかになった。すでに筆者が指摘したようにCI&Eは教科書の執筆にあたってベーシック・イングリッシュ(英国の言語学者オグデン考案)を参照するよう文部省に指示していたが、これ以外に、文字の大きさやイラスト、教科書の形態にも細かい指示を出したこと、最終的な語彙の選定はカリキュラム係官のハークネスによって決定されたことが明らかになった。 第二に、シカゴ大学図書館が所蔵するロックフェラー財団のスティーブンス文書を調査・収集した。この文書には、対日米国教育使節団団員としてのスティーブンスの言語教育改革への構想が示されており、現在、ベーシック・イングリッシュとの関連を分析中である。 第三に、占領期間中にロックフェラー財団が行なった対日英語教育支援の実態の解明を行なった。その結果、民間英語教育研究団体である語学教育研究所(IRLT)への支援の実態が明らかになった。スティーブンスの後任としてロックフェラー財団人文科学部のディレクターとなったファーズはCI&Eの行なった占領諸施策を不十分だと評価し、占領政策の補完としてIRLTをはじめ主要な高等教育機関にCI&Eを通じて米語研究文献を寄贈したことが明らかになった。以上の研究成果は、本研究課題を遂行するための基本情報になると考えらえる。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
第一に、Let’s Learn Englishの編纂過程については第32回日本英語教育史学会全国大会(平成28年5月14日、於東京電機大学)にて口頭発表を行なった。第二に、シカゴ大学図書館所蔵のスティーブンスの個人文書については計画通り調査・収集し分析に着手できている。第三に、占領期におけるロックフェラー財団の対日英語教育支援については、日本教育学会第75回大会(平成28年8月25日、於北海道大学)にて口頭発表を行ない、その後論文化した。 ただし、Let’s Learn Englishの編纂過程については新たな課題が出たため、論文化には至っていない。さらに本研究のメインの課題である冷戦期については分析を進めているものの、やや停滞気味である。
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Strategy for Future Research Activity |
平成29年度は、第一に、平成28年度に残した課題に着手したい。具体的には、Let’s Learn Englishの編纂過程をさらに史料を追加して論文化し、日本英語教育史学会機関誌への投稿論文としたい。第二に、メインの課題である冷戦期におけるロックフェラー財団の対日英語教育支援活動の実態を解明していきたい。そのため、ロックフェラー・アーカイブ・センター(Rockefeller Archive Center, NY, Tarrytown)が所蔵する次の二点の史料を収集する予定である。第一に、スティーブンスの後任であるロックフェラー財団人文科学部ディレクターのファーズの個人文書を収集する。ファーズは、冷戦期のロックフェラー財団の対日英語教育支援の実質的な決定者だったとみられる。この文書のなかには、ファーズがディレクターとして綴ったオフィス・ダイアリーが保存されており、冷戦期のロックフェラー財団の対日英語教育支援の実態を解明するための貴重な記録であると思われる。第二に、財団が1956年以降12年間にわたって行なった日本英語教育研究委員会(ELEC)への支援に関する史料を調査・収集する。ファーズの個人文書と同様にこのELECへの支援内容の解明は本研究課題を遂行するにあたり、必須の史料になると考えられる。この二つの史料の所在については、ロックフェラー・アーカイブ・センターのアーキビストのマーガレット・ホーガン氏にEメールにて確認済みであり、2017年8月に当該センターを訪問する予定となっている(リーディング・ルーム予約済)。
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