2017 Fiscal Year Research-status Report
教職倫理教育と技術者倫理教育の方法論を応用した研究者倫理教育プログラムの開発
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16K04519
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Research Institution | Oyama National College of Technology |
Principal Investigator |
上野 哲 小山工業高等専門学校, 一般科, 准教授 (90580845)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | ポートフォリオ / 徳論 / 職業倫理教育 |
Outline of Annual Research Achievements |
(1)平成29年9月~平成30年2月にかけて、小山工業高等専門学校5年全学科生を対象とした「人間と科学Ⅱ(倫理学)」の授業で、15講に渡りポートフォリオ作成を基軸に据えた研究者倫理教育を実施した。授業内容や教育手法、内容理解や動機付けに関して受講者の評価は非常に高く、授業評価アンケートでは5点満点中4.7点(全額平均4.1点)の評価を得た。このポートフォリオ作成を用いた研究者倫理教育の実践に関する暫定的な分析は、南太平洋州教育哲学会(PESA)及び日本倫理学会で報告した。
(2)教育倫理の視点から、高度な職業倫理が求められるスポーツの審判員の職業倫理教育がどのように実施されているかについて、平成29年4月~8月にかけてフィールドワークを含めた実地調査研究をおこなった。対象としたのは、スポーツ界の「審判」であり、具体的にはサッカーの地域リーグの主審と日本相撲協会の行司である。徳論の視点に基づきメンターが長時間かけて人間的な影響力を及ぼしながら倫理教育をおこなうという特徴的な手法について、論考「スポーツにおける誤審をめぐる倫理学的考察」としてまとめた。またこの調査に関連し、徳論による道徳教育を論じた『徳は何の役に立つのか?』(A.ミュラー著)を翻訳出版した。
(3)平成30年3月にタイ王国の高等教育機関における研究者倫理教育の実態調査をおこなった。チェンマイ県にある国立メイジョー大学建築環境デザイン学科を対象に5日間にわたり、おもに大学院生(修士課程)を対象に聞き取り調査をおこなった。この調査から、少なくとも研究者としての倫理観はタイ王国の場合は損得や処罰への恐れとは無縁のものの上に成り立っているという新たな知見が得られた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
(1)【ポートフォリオを用いた研究者倫理教育の試行及び参与観察・実地調査の成功】 今年度の試行により、学校における授業の中でポートフォリオを導入した研究者倫理教育が充分に成立する可能性が見いだせた。しかも、方法次第で受講者に高い動機付けを与えられるという副産物まで得ることができた。また、サッカーの審判や大相撲の行司を対象とした参与観察調査により、研究者倫理教育の分野では、どちらかというと分が悪い「徳論」に基づく倫理教育の有用性を実証できる目処がついた。さらに、これまでほとんど明らかになっていなかったタイ王国の高等教育機関において実施されている研究者倫理教育の実態を垣間見ることができたことで、西欧の価値観とは異なるものをベースにした研究者倫理教育の手法を確立できる確信を得た。
(2)【学会(国際学会を含む)論文、著書おける研究成果の発表】 研究途上とはいえ、暫定的な研究分析の結果を、オーストラリアで開催された南太平洋州教育哲学会(PESA)及び、日本倫理学会で発表することができた。前者の学会においてはおもにイングランド、オーストラリア、ニュージーランドの倫理教育に関わる現職教員から、また後者の学会においては研究者としての倫理学者から、それぞれ異なる視点に基づく意見を多く得ることができた。また論文1本、著書1冊、翻訳書1冊を研究成果の一部として刊行することができた。
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Strategy for Future Research Activity |
(1)【知識注入をメインとしない研究者倫理教育プログラムの確立】平成29年度に小山工業高等専門学校で試行したポートフォリオを用いた研究者倫理教育をより汎用性の高いものに転換できるよう、プログラムの試行版を精査する。重点をおくのは、ポートフォリオチェックにかかる教員の負担軽減である。どれほど成果が見込まれる倫理教育プログラムであっても、一般的な教員が勤務時間内に完結できる内容でなければ広まることはない。この精査のために、民間の医療保健福祉職(ソーシャルワーカーが中心)教育の一部に本倫理教育プログラムを試験的に導入していただき、その結果を最終版作成に活かす。
(2)【教育系学会(国際学会を含む)での発表】徳論に基づく研究者倫理教育の可能性について、特に「誰でも教えられるようにする」という観点から見解を確立し、教育系の学会(国際学会を含む)で発表し、教育学系研究者にどのように受け入れられるかを確認する機会を作る。平成29年度は、現場の教員や倫理学者と議論する機会はあったが、教育学系研究者と率直に意見交換する場を設けられなかったためである。さらに、この学会発表の場を研究成果報告の場とすることで、ポートフォリオを用いた徳倫理学的な研究者倫理教育の可能性を主張する。
(3)【タイ王国における研究者倫理教育の実態調査の継続】平成29年度にタイ王国国立メイジョー大学で実施した研究者倫理教育実態調査から「少なくとも研究者としての倫理観はタイ王国の場合は損得や処罰への恐れとは無縁のものの上に成り立っているのではないか」との仮説を得て、それを本研究に反映させることを試みているが、その仮説をより確固たるものにするために、タイ王国の他の高等教育機関でおこなわれている研究者倫理教育の実態調査を、副次的にではあるが実施する。
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Research Products
(5 results)