2017 Fiscal Year Research-status Report
小中一貫校の設置と学校づくりにおける教師の学習過程の分析と支援方策の検討
Project/Area Number |
16K04537
|
Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
藤江 康彦 東京大学, 大学院教育学研究科(教育学部), 教授 (90359696)
|
Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2019-03-31
|
Keywords | 小中一貫校 / 教師の学習 / 学校組織 / コンサルテーション |
Outline of Annual Research Achievements |
一つには、小中一貫校の学校経営書および行事企画書作成に向けた、小中学校の教師たちによるワーキンググループの会議とワーキンググループを統括する管理職と教務主任からなる統括委員会の会議への参与観察をおこなった。教師たちは「小中一貫校」の教師として獲得したことばを用いて活動を行っていた。それぞれの校種の教師としてのアイデンティティをもちつつ小中一貫校の教師として実践を構想するという活動が、教師にとっては、自校種の文化や特性を省察しつつ他校種のそれを理解し、学校や教育といった概念そのものの拡張的理解に向かうという教師の学習の過程が仮説的に示された。 二つには、学校、地域、行政が協働で組織する「設立準備委員会」(年6回)での参与観察をおこなった。小中一貫校の学校としての枠組みの制定過程において、地域と学校、双方の小中一貫教育に対する見方や考え方は当初から共有されていたわけではないが、意思の葛藤や衝突はみられなかった。まだ実体のない学校のいわば疑似経営組織として「設置準備委員会」が機能したことで、教師と地域代表者とが開校予定の小中一貫校における教育活動を現実のものと意味づけ小中一貫教育像を共有できたことが仮説的に示された。 三つには、協力校の教師や地域代表者への面接調査を行った。教師たちは、小中一貫教育の理念や生じうる教育的効果について理解しており小中一貫校そのものについては好意的であった。他方で、校種間の協働体制や保護者の期待と不安を受けて一貫校設置への困難を感じたり、行政や地域の意思の不明確さを感じ、それをズレや温度差としてとらえていた。しかしこれらを自分たちの活動へ制約を与えるものととらえず、自分たちとは役割や志向の異なる主体として位置づけることで、自らの描く学校の設置に向けて行政や地域への要求をもち自らの活動に正当性を付与していることが示唆された。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
2年目となる平成29年度は、ワーキンググループや設立準備委員会への参与観察と教師や地域代表者への面接調査を継続して実施するとともに、すでに実施済の、設立準備委員会に参加している地域代表者(自治会代表)、設置準備委員会会長、副会長(いずれも地域有識者)への面接調査と経年で実施している教師への聞き取り調査の結果を併せて分析した。分析においては、学習論の一つである状況論の展開において複数の状況間の横断過程に着目する文脈横断研究のなかで着目されてきた概念である「境界」概念を参照しつつ、教師たちの語りからは、小中一貫校開校準備の過程は、小中一貫教育をめぐる多様な「境界」が可視化されたり、再確認されたりしながら、それらを超えていく行為であったということができることを検討した。そして、「人やモノが複数のコミュニティをまたいだり、異質な文脈同士がその境界を越えて結びついたりする過程を、さらにはそこで起こる人々やモノの変容過程」を指す「越境」の概念を参照し、小中一貫校の開設においては外部から持ち込まれる情報、子どもの学習や発達への願い、地域と連携していかなくてならないという使命感、保護者から吐露される不満をかわしたいという防衛、などが「越境」を後押ししていることが示唆されうることを検討した。「境界」ならびに「越境」概念は、小中一貫校の準備過程における教師の学習を分析するにあたり有力な視座となり得る。また、対象となる自治体とは別の自治体に設置されている小中一貫校での調査も実施し、学校組織や開校後の実践についての分析の視点を得ることもできた。 教師へのコンサルテーションという点においては、面接調査の過程自体に小学校や中学校の教師に対して、関与している活動の意味を示したり、教師たちの直面している課題状況を示してその原因を示唆するなどコンサルテーションの機能が内包されていた。
|
Strategy for Future Research Activity |
1.観察や面接によって得られた調査データの整理と理論構築:これまでに引き続き、面接によって得られた教師や地域代表者の語りを、小中一貫校の開校準備において彼らがどのような経験をし、それをどのように省察し評価しているのかという観点から質的に分析することで、学習の契機が小中一貫校の準備に向けた活動にどのように埋め込まれているのかを明らかにする。その際に、本年度試みた「境界」、「越境」概念を参照し、その可能性を確認するとともに、理論構築を進めていく。さらに、対象校が研究3年目に小中一貫校として開校することに伴い、小中一貫校の開校とそこでの実践における経験も調査し、準備段階から開校後の実践における経験の連続性や非連続性を明らかにする。 2.調査対象の拡張:昨年度に引き続き、研究協力校の設置されている自治体とは別の自治体においてすでに開校している小中一貫校に対する調査を実施し、本対象校における実践の対象化を図るとともに開校後に生じる課題やその解決に向けた活動を明らかにし、準備段階において直面する課題との連続性や非連続性を明らかにする。同時に、研究協力校の開校後の実践への分析枠組みを構築する。すでに申請者が有する別の自治体や小中一貫校との連携体制をより緊密なものとすることで実現の可能性を高めることとする。 3.コンサルテーションの計画的実施と支援システムの開発:開校後においても調査データに基づくコンサルテーションを試みるとともに、小中一貫校における課題解決支援モデルを検討する。教師自身が子どもの発達や小中一貫校における教育実践のありかた、個々の教師の課題について構造的にとらえ改善案を考えていくことを支援するコンサルテーションの契機を設けることの可能性を模索し、それへの参加を促す誘因を検討する。さらにこの過程自体の記録を採取し、コンサルテーションシステムの評価をおこないモデル構築に反映させる。
|
Causes of Carryover |
(理由) 一年目から二年目にかけて生じた次年度使用額に加え、さらに本年度の使用額も計画に比して低予算で抑えられた。研究自体は概ね計画通りであるが、研究機材について従来使用のものを継続して使用できたことに加え、研究作業の補助を依頼できる学生がおらず、申請者自身が作業を進めたため、謝金の支払いが抑えられたことによる。 (使用計画) 三年目は、中心的な対象校に加え、引き続き、すでに申請者によるラポール形成が進んでいる学校や地域を中心として研究協力校を拡張し、十分にデータを収集する。複数箇所でフィールドワークを行うための機材や旅費が必要となるであろう。また、これまでに得られたデータと併せて整理と分析を円滑に進めるための作業にかかるアルバイトを雇用するか、データ整理の外部委託を行うこととする。以上のように、次年度使用額相当の金額とともに次年度交付額を有効に活用することとする。
|
Research Products
(2 results)