2016 Fiscal Year Research-status Report
地域・自治体における戦後初期公民館の実像に関する研究
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16K04544
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Research Institution | Gifu University |
Principal Investigator |
益川 浩一 岐阜大学, 地域協学センター, 教授 (40334916)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | 公民館 / 初期公民館 / 社会教育 / 優良公民館 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究では、初期公民館に注目し、その実像をより精緻に捉え、その具体的諸相を明らかにすることを目的とする。その際、とくに優れた活動を行っていたとして文部省(当時)や自治体から表彰された「優良公民館」に着目することとする。こうした研究目的を達成するため、本年度は、いくつかの初期公民館の関係史・資料の発掘・収集とその筆耕作業を行った。その上で、「優良公民館」の特質を析出することを試みた。愛知県の優良公民館表彰は、1949年に4館、1950年に3館、1951年に5館が表彰されている。1949年に表彰を受けた公民館の表彰理由から「優良公民館」の特質を析出するとするならば、以下のような点があげられる。 第1に、公民館が、「むらの自治的活動の拠点」とされている。例えば、一宮村大木公民館では、公民館が「新郷土建設」の中心に位置づけられており、桜井村公民館では、公民館活動により、村の民主化が進み、投票率の向上につながった旨が記載されている。第2に、公民館が、「生産活動の技術学習的拠点」として位置づけられている。例えば、楽田村公民館では、農業経営についての研究が取り組まれている。第3に、公民館が、「青年の学習・教育の場」として位置づけられているということである。例えば、桜井村公民館では、青年研修所を設けて活動を行っていた。また、楽田村公民館では、青年の組織する読書会が行われていた。 以上のような県の優良公民館表彰を受けた公民館以外にも、愛知県の初期公民館の中には、さまざまな特徴ある活動を行っていた公民館があった。例えば、碧海郡高岡村公民館では、風呂を設けて、湯上がりに講座を受講できるようにしたり、ミシンを20台ほど揃えて、和洋裁の講座を開催したりした。また、南設楽郡鳳来寺村公民館では、公民館内に診療所を設置していた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究では、初期公民館に注目し、その実像をより精緻に捉え、その具体的諸相を明らかにすることを目的としている。その際、とくに優れた活動を行っていたとして文部省(当時)や自治体から表彰された「優良公民館」に着目することとする。こうした研究目的を達成するため、本年度は、いくつかの初期公民館の関係史・資料の発掘・収集とその筆耕作業を行った。その上で、「優良公民館」の特質を析出することを試みた。 例えば、次のような優良公民館の事例について史・資料収集とその筆耕作業を行い、「優良公民館」の特質の一端を解明することができた。 ・碧海郡桜井村公民館:「県下随一の多額の予算をもって公民館を運営し、殊に青年研修所の開設は全国にまれにみる施設であり公民館の村の民主化のために果たした役割は大きく、その実績は本年度の各種選挙等に如実にあらわれている。」 ・丹羽郡楽田村公民館:「農村同志会を中心とした農業研究会並びに青年を中心にした農学の夕においては、保守的に旧伝統を抜けきれない農業経営について新しい合理的な経営によって研究実施をすすめつつある。特に今後の農村恐慌を前にして、農業協同組合の運営を中心とした農産加工殊に飼育利用、果樹の栽培方面の進歩は著しいものがある。/月一回定期的に行うあけぼの会読書会の向学心に燃える有為の青年層は月々公民館に集まり、その真剣な読書と意見の交換は青年層の良識を高めている。」 ・宝飯郡一宮村大木公民館:「いわゆる煙仲間の精神をもった7名の運営委員が公民館を中心として新郷土建設に精魂うちこんでおり、しかもその運営は世論調査をもとにして実に民主的であり、村の民主化と教養の向上に与えた効果は大きい。また、毎月継続して発行されている大木公民館報は村を明るくする道しるべとして大きな役割を果たしている。」 したがって、研究は、おおむね順調に進展していると言える。
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Strategy for Future Research Activity |
今年度は、初期公民館における「優良公民館」の特質の一端を解明することができた。 まず第1に、公民館が社会教育の機関としてのみならず、「むらの自治的活動の拠点」、「生産活動の技術学習的拠点」、「青年の学習・教育の場」として位置づけられていたという点である。 第2に、公民館が、一般行政との連携のもと、新郷土建設の中心に位置づけられていたということである。例えば、桜井村公民館において、公民館の活動が、愛知県の進める新郷土建設計画のなかに位置づけられており、そのことによって、予算が多額となるなど、公民館が活動を推進するうえでもプラスに働いたようである。 今後の研究課題としては、優良公民館の地域における実態のさらなる実証的研究の必要性があげられる。中央行政とは相対的な地域ならではの動態に注目し、地域独自の具体的な公民館の設立、運営過程の実像を明らかにするという意味で、本研究ではいくつかの優良公民館をとりあげたが、それ以外の地域の初期公民館にも注目する必要があろう。とくに、公民館事業の内容分析にいっそう力をいれ、初期公民館活動が、全体として、どのような教育的価値の実現過程であったのかをさらに深く究明していくことが必要であろう。地域に特有の、社会的、経済的、文化的特性をトータルに掘り下げて、その中で公民館活動がどのようなかかわりをもっていたのか、すなわち、地域独自の基盤も視野にいれながら、初期公民館定着の民衆的基盤をえぐり出し、初期公民館の具体的な展開過程の実像をより一層明らかにしていくことが、今後の課題となろう。 そのためには、来年度も引き続き、「優良公民館」の関係史・資料の発掘・収集とその筆耕作業を行うこととしたい。
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