2017 Fiscal Year Research-status Report
戦後日本における就学費・子育て費をめぐる財政法制度構造に関する総合的研究
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16K04545
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Research Institution | Nagoya University |
Principal Investigator |
石井 拓児 名古屋大学, 教育学研究科(研究院), 助教 (60345874)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | 教育行財政 / 福祉国家 / 学習権保障 / 教育無償化 / 高等教育 / コストシェア |
Outline of Annual Research Achievements |
本年度は、福祉国家類型論の学説史的展開を概括するとともに、日本の特殊な社会構造をその歴史性とともに明らかにする作業をおこなった。また、こうした特殊な社会構造と日本の教育行政・制度との関連性について考察するとともに、この特殊性ゆえに戦後日本の教育行政学研究にもたらされた理論的影響を究明し、今後の克服すべき理論的課題を提示した。その研究成果は、「戦後日本における教育行政学研究と福祉国家論-福祉国家教育財政研究序説-」(『教育論叢』第60号、2017年3月、3-17頁)として発表した。 2017年10月の総選挙では、各政党がにわかに「教育無償化」を掲げ、その後、政府は公約実現のために「人生100年構想会議」を立ち上げ、本格的な政策検討をすすめている。こうした新しい社会状況、社会的要請に研究的に貢献するため、本年度の後半は、高等教育における教育無償化および若者・青年向けの社会保障の在り方を横断的に検討する作業を行った。各国共通の動向としての高等教育費をめぐるコストシェア(ジョンストン)の状況を俯瞰的にとらえつつ、青年向け社会保障(例えば交通や住宅)の在り方が深くかかわりながら、その制度形態には多様性がみられること、そして、青年向け社会保障制度が巨大な空白となっている日本において、コストシェア(すなわち教育費の私的負担)が拡大しつつあることを見出しつつある。 また、海外では、コストシェアの問題状況をふまえ、高等教育の無償化に向けた本格的な政策検討が進められている地域や、立法化を準備しつつある国もある。アメリカのカリフォルニア州では、「州立大学無償化法案(College for all act)」がすでに用意されているが、2018年3月には、同地を訪問し、関係者へのインタビューを行い、情報を収集した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
世界各国で、教育無償化をめぐる具体的な動きがみられるようになってきたため、当初の研究計画通りとはなってはいないが、制度論的にはむしろ計画段階よりも現在の方が研究を進めやすい状況がひろがっており、おおむね順調に進展していると判断できる。
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Strategy for Future Research Activity |
アメリカでは、教育費無償化に向けて、さまざまな制度措置が講じられ、近年では「純授業料」という新しい概念も登場してきている。「純授業料」の算出方法は、きわめて難解で、これに関して活用しうる統計データを見いだせていない。海外の研究者との共同を通じ、この状況を早くとらえることが課題となっている。 また、アメリカのいくつかの州では、大学授業料の無償化措置を講じていることから、それらの州における財政状況の検討をすすめつつ、その政策的背景を解明することが今後の課題である。
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