2016 Fiscal Year Research-status Report
戦後日本における義務教育費国庫負担制度の確立・展開過程に関する分析的研究
Project/Area Number |
16K04547
|
Research Institution | Nara University of Education |
Principal Investigator |
井深 雄二 奈良教育大学, 教育学部, 教授 (30142285)
|
Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2019-03-31
|
Keywords | 義務教育費国庫負担制度 / 教員身分法案 / 教育委員会法 / 学校基準法案 / 学校財政法案 / 標準義務教育費法案 / 地方教育行政法 / 義務教育標準法 |
Outline of Annual Research Achievements |
1.日本教育政策学会第第23回大会(2016年7月3日、実践女子大学)の課題研究において、「義務教育費国庫負担制度と県費負担職員制度の問題構造」と題する報告を行った。本研究は、戦前から戦後に至る義務教育費国庫負担制度の展開過程を俯瞰したもので、戦後において1952年義務教育費国庫負担法に基礎づけられた同制度は、1956年地方教育行政法成立と1958年義務教育標準法成立の二段階を経て確立したことを論じた。なお、同報告は日本教育政策学会年報第24号(2017年7月)に掲載されることになっている。 2.「戦後教育改革期における学校基準法案と学校財政法案」の研究を行った。本研究は、1952年義務教育費国庫負担法成立の前段階における義務教育財政制度改革構想の分析を行ったもので、従来の研究を踏まえ、日本側及び占領軍側(CIE)の新資料を用いて、特に(1)学校基準法案が教育委員会法成立後の地方教育財政改革を見据えてのCIEの示唆に基づき発案されたこと、(2)同法案は学校財政法案とセットで構想されたがシャウプ税財政改革の際には標準義務教育費法案と組み合わされたこと、及び(3)標準義務教育費法案が未成立であったことに規定されて、学校基準法案も未成立に終わったことを論じた。本研究の成果は、適切な学会に投稿すると共に、日本教育法学会第47回定期総会(2017年5月27日、中央大学)で発表することになっている。 3.「戦後教育改革期における教員身分法案と教員の任免権問題」をテーマに研究を進めている。義務教育費国庫負担制度は、教員の任免制度と密接な関連を有している。それは、教員の給与負担者と任免権者の一致ということが、義務教育費国庫負担制度の一要点だからである。本研究では、教員身分法案の教員管理思想を検討する。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
1.当該年度には、戦後教育改革期における1940年義務教育費国庫負担法の廃止(1951年)と1952年義務教育費国庫負担法の成立に至る過程を明らかにする予定であった。しかし、1940年義務教育費国庫負担法の廃止に至る過程で検討された義務教育財政構想を分析するに止まった。 2.戦後教育改革期の研究には占領教育文書の検討が不可欠で、中でも特に重要なものは、トレイナー文書とCIE文書である。両文書のコピーは国立国会図書館憲政資料室で所蔵されているほか、名古屋大学教育学部でも所蔵している。本研究では、便宜により名古屋大学教育学部所蔵の資料を用いているが、一部に欠損がある。このため、その収集・分析に予想外の時間を要している。 3.標準義務教育費法案の措置や1952年義務教育費国庫負担法の成立過程において、地方財政委員会が活発に反対意見を述べている。その資料は、国立公文書館所蔵の青木得三郎文書として残されているが、筑波分館にあるため十分な調査ができないでいる。 4.1952年義務教育費国庫負担法の成立後、その施行過程で義務教育学校職員法案が閣法として国会に提出された。同法案は、未成立に終わったため、従来十分な研究がされていない。同法案に関する資料は、国立公文書館や国立教育教育政策研究所教育図書館などに所在するが、資料を収集したものの、分析するまでには至っていない。 およそ以上が当初の計画よりやや遅れていると自己評価する理由である。
|
Strategy for Future Research Activity |
1.教員身分法案と教育委員会法案の立案は並行して行われたが、前者は教員を国家公務員に位置づけようとしたものであり、後者は教育行政の分権化を志向するものであった。この矛盾した構想の展開過程の帰結として、小中学校の教員は地方公務員に位置づけられ、その任免権は地方教育委員会に帰属するところなった。こうした過程を、資料に基づき精緻に解明する。 2.標準義務教育費法案の挫折後、義務教育費国庫負担論が復活し、1952年義務教育費国庫負担法の成立に至る。この過程を、文部省、都道府県教育委員会協議会、全国知事会、日教組などの諸アクターの言説の分析を通して明らかにする。 3.半額定率制の1952年義務教育費国庫負担法成立後、それが施行される前に義務教育学校教員の給与の全額国庫負担とその国家公務員化を図る義務教育学校職員法案が閣法として国会に提出された。同法案は、未成立に終わったとはいえ、一方では教員身分法案の系譜を引き継ぎ、他方ではその構想の一部が1956年地方教育行政法に引き継がれている。その意味で、1952年義務教育費国庫負担法の確立過程を分析するためには、同法案の帰趨を検討しておくことが必要である。 4.およそ以上の研究を進めるために、教員身分法案、教育委員会法案、標準義務教育費法案、義務教育費国庫負担法案、及び義務教育学校職員法案に関する日本側資料(特に教育公務員特例法案関係)と占領軍側資料(CIEのみならずGS関係の資料を含む。)を国立公文書館、国立国会図書館憲政資料室などで収集し、分析を進める。
|
Causes of Carryover |
概ね当該年度の所要額に近い金額を執行したが、若干の残余が出たものである。
|
Expenditure Plan for Carryover Budget |
第2年度(平成29年度)の所要額に合算して執行する。
|
Research Products
(3 results)