2017 Fiscal Year Research-status Report
戦後日本における義務教育費国庫負担制度の確立・展開過程に関する分析的研究
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16K04547
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Research Institution | Osaka University of Health and Sport Sciences |
Principal Investigator |
井深 雄二 大阪体育大学, 教育学部, 特任教授 (30142285)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | 義務教育費国庫負担法 / 学校基準法案 / 学校財政法案 / 標準義務教育費法案 / 教育身分法案 / 教育委員会法 / 義務教育学校職員法案 / 標準義務教育法 |
Outline of Annual Research Achievements |
研究期間第2/3年度においては、1952年義務教育国庫負担法の成立・実施過程の検討を中心に研究を進めた。 1952年義務教育費国庫負担法案は、当初「義務教育費全額国庫保障案」とも言われたように、国の義務教育費総額及び各都道府県の義務教育費総額を算定し、各都道府県の義務教育費総額から負担可能額を差し引いた額の全額を国が負担する構想で、義務教育費の中には、教員給与費、学校運営費、学修費、及び学校建築費を含むものであった。しかし、この文部省構想に対しては、大蔵省と自治庁が難色を示したため、定員定額の給与負担と教材費の一部負担を内容とする義務教育費国庫負担法案が自由党からの議員立法法案として提案された。その後、自由党、大蔵省、及び自治庁の妥協がなり、衆議院及び参議院における修正を経て、実員実額半額定率制の義務教育費国庫負担法が成立した。本研究では、このような法案の変遷過程を資料に基き明らかにすると共に、この法案の国会審議を精査し、自治庁側から学校基準法の制定を先行させるべきとの主張がなされ、文部省側からは同法案の提出準備をしている旨の答弁が行われていたこと、文部省は義務教育費国庫負担制度の必要性を義務教育が国の事務であるという点に求めていたことなどを明らかにした。 義務教育費国庫負担法の実施過程において、教員給与費の全額国庫負担と義務教育学校職員を国家公務員とする旨の義務教育学校職員法案が閣法として国会へ提出された。この法案の内容を①国庫負担制度、②教員身分制度、③地方教育行政制度の三つの側面から全面的こ検討した。また、同法案が廃案に至る経緯についても詳細に検討した。 別に、義務教育費国庫負担制度と関係の深い教員の任免権問題を教育委員会法案及び教員身分法案の立案過程について検討した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究の目的は、戦後における義務教育国庫負担制度の成立及び確立過程を、同制度が大きく変容している2000年代以降の実態を踏まえて、分析的に検討し、新たな知見を得ることにある。 3年の研究期間において、第1年度は戦後における教育財政改革構想と1940年義務教育費国庫負担法の廃止過程を検討した。 第2年度では、1952年義務教育国庫負担法の成立過程に関し、諸法案の分析及び国会審議の分析を行った。また、同法の実施過程において一時期問題となった義務教育学校職員法案を詳細に検討した。更に、義務教育費国庫負担制度と関係の深い教員の任免権について、教育委員会法と教員身分法案の検討を行った。 およそ以上の結果、本研究の中心課題の一つである戦後における義務教育費国庫負担制度の成立過程を概ね明らかにすることができたものと考える。
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Strategy for Future Research Activity |
最終年度となる第3年度では、戦後における義務教育費国庫負担制度の確立過程を検討する。 1952年義務教育費国庫負担法が成立した時点では、1940年に成立したいわゆる県費負担制度が存続していたが、教員の任免権は教育委員会法により学校の設置者たる市町村教育委員会に帰属していた。この教員給与費の負担主体と教員の任免権の主体が異なることは、義務教育費国庫負担制度を不安定なものにしていた。この不一致は、1956年地方教育行政法の成立によって都道府県に一元化されることで解消されることになる。この過程を、国立教育研究所教育図書館及び国立公文書館に所蔵されている教育行政文書の分析を通して明らかにする。 1952年義務教育費国庫負担法は、教育の機会均等を同法の目的として謳っているが、実員実額半額定率制の同制度は、都道府県間の財政力の差がそのまま反映されるため、教育の機会均等に資するものではなかった。その一つの事例が、石川達三『人間の壁』のモデルとなった佐賀県教組の「三・三・四」闘争であった。そして、この事件を一つの契機として義務教育標準法が成立し、義務教育費国庫負担制度の教育の機会均等化機能が働くようになった。ここに義務教育費国庫負担制度は安定的した制度として確立したものと考えられる。本研究では、この義務教育標準法の成立過程を、主に同法案に関する国会の審議を検討することにより明らかにする。
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Causes of Carryover |
収支における端数として次年度使用額が生じた。次年度に繰り入れて使用する予定である。
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Research Products
(4 results)