2017 Fiscal Year Research-status Report
自治体・中間支援機能の再構築過程にみる学習支援構造の変容に関する研究
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16K04557
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Research Institution | Takasaki City University of Economics |
Principal Investigator |
櫻井 常矢 高崎経済大学, 地域政策学部, 教授 (40363775)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | 中間支援 / 社会教育 / ガバナンス |
Outline of Annual Research Achievements |
研究2年目となる本年度は、研究計画記載のとおり自治体中間支援機能の再構築という研究テーマに照らし、国内外の先駆的な事例への訪問調査を重ね情報収集に取り組んでいる。これらにかかわる旅費、必要な文献、資料等、並びに必要備品の購入経費を当初の申請のとおり支出している。 訪問調査としては、初年度に引き続き既設の中間支援施設における機能の見直しを検討している自治体、あるいは民間の中間支援組織として新たな事業活動の展開を構想・実践している団体についての現地調査や情報収集を精力的に行った。前者として、宮城県多賀城市(追調査)、愛媛県西条市、後者として岩手県一関市、沖縄県那覇市、岩手県北上市、広島県福山市、佐賀市などを訪問している。その多くは、従来からのNPO・市民活動支援から校区コミュニティや自治会等の地域コミュニティ支援へと中間支援機能を移行(あるいは補強)しようとするものが多くあった。それに伴い、また近年の市町村の政策課題である地域包括ケアシステム構築に向けた取り組みも重なり、自治体の社会教育行政や社会福祉協議会等との連携を模索するものや、むしろ従来からの組織・事業の統合・再編に向おうとする動きなどがみられた。また海外の事例調査としてカンボジアにおけるCommunity Learning Center(CLC)とそれを取り巻く中間支援組織の取り組みなどにも着眼している。農業振興や所得向上といった地域課題解決に向けた当該コミュニティのリーダーたちとのミッションの共有にはじまり、コミュニティを取り巻く多様な主体間のネットワーク化を通じて中間支援組織が教育プログラムの開発、地域リーダーの育成などの学習支援機能を構築する実践からは、地域コミュニティ支援型中間支援機能の一つのモデル形態を見出すことができたといえる。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
国内の事例調査によって、中間支援機能の再構築を意図する自治体が直面している課題や改善に向けた方策、そして新たな研究上の視点が明らかとなった。 第一は、中間支援機能の再構築をめぐって、従来までの中間支援施設の運営主体と自治体行政とのパートナーシップ関係をめぐる混乱である。具体的には、NPO支援から地域コミュニティ支援へと中間支援機能の移行を図る場合、運営主体そのものの目的や手法、そして行政側の評価の視点にも見直しが迫られる。本調査の事例では、指定管理者運営であった中間支援施設を行政運営(直営)に戻し、支援体制を再整備する自治体が複数みられた。第二は、中間支援機能の再構築をめぐって、広域での自治体間のネットワーク形成がみられることである。これは中間支援機能を発揮する資源(人材・団体)が自治体ごとに限定的であることに理由を求めることができる。事例からは、自治・協働をめぐる全国規模でのネットワークに基づく職員研修をきっかけに、中間支援のノウハウや人材の共有・供給に成功しているケースがあった。これらを踏まえると、第三として求められる中間支援機能とは、市町村を越えた自治体間ネットワーク、あるいは県行政や大学等のより広域かつ専門的な機関の役割についても検討する必要がある。 そして本研究では、初年度の海外調査の蓄積を踏まえ、CLCの地域展開を支える中間支援機能の具体的事例について調査を実施した。カンボジア・シェムリアップ市周辺にある複数のCLCでは、運営委員会の組織化、あるいはコミュニティ(リーダー)、学校、保健機関、NGO等のネットワーク化の促進、農業振興や雇用創出といった生活課題との関連での学習の展開といういくつかの共通項がみられた。これらは、現在日本で進む中間支援施設等の見直しの動向にとって重要な示唆を与えている。上記のことから、本研究はおおむね順調に進展しているといえる。
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Strategy for Future Research Activity |
自治体・中間支援機能の再構築過程にみる学習支援構造の変容に着目する本研究では、最終年度も引き続き事例調査を進め、中間支援機能の再構築に向けた実践上の課題、そしてその改善方策について把握することに力点をおく。具体的には下記の視点を重視した研究となる。 第一に、中間支援機能の再構築をめぐって現れる既存の自治体社会教育や社会福祉協議会との連携、あるいは統合・再編のプロセスに着目し、その契機となる施策・事業の分析を進める。これらは本研究から見えてきた実践上の課題であり、引き続き調査を進める。これまでの調査では、市町村が進める地域包括ケアシステム等において社会教育、地域福祉、地域医療、自治会等の協働関係の構築がみられ、自治体の中間支援施設がこうした施策展開を支えるコーディネーター機能を果たすケースもある。この点に中間支援機能の新たな展開可能性を見出すことを仮説として設定したい。第二は、自治体のコミュニティ政策との関連で現れる中間支援機能が、具体的な生活課題や地域課題解決にアプローチする際の教育・学習についての分析である。公民館等の社会教育施設との連携、あるいは教育行政と一般行政の連携などから、中間支援機能が有する学習構造を明らかにすることである。ここに地域コミュニティ支援型中間支援施設が関与することの意義、あるいは従来の自治体社会教育との相違点などを重視した検討となる。そして第三は、新たな中間支援機能を実現する人材、団体の育成についてである。これまでの調査では、地域担当制によって人材育成に取り組む中間支援組織を取り上げているが、自治体や大学との連携など、より制度的な枠組みでの人材育成システムにアプローチしたいと考えている。最終年度となるため、既述した研究課題に迫る事例選定と調査に取り組むと同時に、地域政策関連学会へ論文投稿等によって調査研究の成果をまとめ、発信していく予定である。
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Research Products
(4 results)