2019 Fiscal Year Research-status Report
Project/Area Number |
16K04559
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Research Institution | Kyoto Prefectural University |
Principal Investigator |
田所 祐史 京都府立大学, 公共政策学部, 准教授 (40772140)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2021-03-31
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Keywords | 公民館 / 社会教育施設 / 設置形態 / セツルメント / 寺中作雄 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、敗戦後から1950年代までを中心に、公民館の施設設置形態の実態を把握し特徴を析出することと、戦後公民館の出発の前史としての戦前のセツルメント等の施設形態を把握することを柱に歴史研究を進めている。 前者の史資料収集は本調査研究の核であり、各都府県の県立図書館を中心に教育行政資料や各種機関誌など、現地でしか収集できないものを優先して調査を進めている。また、文部次官通牒を報じる地方新聞記事確認も各都府県ごとに進み、報道における公民館受容の一面が明らかになりつつある。2020年度の学会報告を目指して、収集済みの都府県の史料講読や統計整理を行っている。2019年度は、日本社会教育学会において、杉本智氏と共同で自由研究発表「京都府公民館の歴史と現状に関する予備的考察」を行った(杉本智氏は当日都合によりやむを得ず欠席)。また、公民館設置構想と政策の立案・推進の中心にいた文部官僚・寺中作雄について収集史料を紹介しつつ、公民館構想以前の寺中について発表した。 後者の戦前施設研究は、史資料の収集整理を終えて成果を公刊できた。既刊のセツルメント関係史料集成に掲載されていない史料を収集・掲載し、社会事業のみならず社会教育の観点でもまとめた。関連研究の基礎となる研究材料の保存と共有が達せられた点で意義があるといえる。 企画監修 寺脇隆夫、編者 田所祐史『戦前日本の社会事業・社会福祉資料 第5期 住宅問題 住宅対策 隣保事業・セツルメント事業』柏書房、2019年12月(田所担当……全9巻のうち、第6巻~第9巻の4冊分の編者。解説「隣保事業・セツルメント事業」と「隣保事業・セツルメント事業 資料一覧」執筆、同書第6巻 pp.5-21) 今後、初期公民館の設置形態についての学会での研究発表や、社会教育史をまとめる文献の戦前・占領期等の施設史部分の執筆を進めていく計画である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
初期公民館史資料の収集調査については、2019年度は、福岡県(福岡)、大阪府(大阪)、京都府(国立国会図書館関西館と京都、舞鶴)、岡山県(岡山)、三重県(津)、茨城県(水戸)、東京都(港区)、埼玉県(熊谷)、福井県(福井、敦賀、小浜)、山口県(岩国)、兵庫県(明石)、滋賀県(大津)の、合計12都府県の16館に及ぶ図書館・文書館調査を行った。 年間9以上の都道府県を自らに課しているので、その限りでは精力的に進めているといえるが、計12都府県のうち、福岡、大阪、東京、山口、兵庫、滋賀の6都県は、昨年度までの補完的調査であったり、時間的制約で十分な調査時間を得ることができなかったりした面もある。特に、3月に計画していた府県の調査をコロナウイルス感染症拡大予防で、図書館が休館し、予定の調査を行うことができなかった。データ収集がない限り分析を進めることができず、その意味では十分進捗できていない部分がある。 一方、7月に広島で開催された日本公民館学会における平和学習の研究課題において、本研究の関心と広島の公民館史が重なり、今後の研究の幅が広がった。収集した新史料も紹介しつつ、「公民館構想以前の寺中作雄」と題して、戦前の寺中の経歴・思想形成の背景等について執筆した。また、『日本社会教育史(仮称)』(共著)の出版計画・準備が進み、執筆にとりかかっている(1部第2章第5節「社会教育施設づくり」、第2部第1章「新教育制度の確立と社会教育法の制定」、第3章第2節「住民の学習活動と自治体社会教育」)。 とりわけ大きな成果は、『戦前日本の社会事業・社会福祉資料』の第5期「隣保事業・セツルメント事業」の刊行である(2019年12月、柏書房)。公民館史研究において、源流の一つとされるセツルメントの戦前の史料を収集・編纂し、第6巻~第9巻の4冊の編集と解説を行い、発行することができた。
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Strategy for Future Research Activity |
2019年度末以降、コロナウイルス感染症拡大予防で公共交通機関による移動や、図書館・文書館の休館があり、史資料の収集・調査・分析が進められない状況にあるが、これまでに収集した史資料の整理を通じて、学会発表や論文・研究ノート執筆を進めていきたい。 史資料収集を継続していく中で再度調査を要する都府県もあり、調査項目の再検討や史資料探索の方法の再検討が課題である。収集調査と整理・分析に割ける時間の制約も大きな課題で、1館あたり1~2日程度の調査時間をいかに能率的に生かすか、さらに創意工夫していきたい。
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