2016 Fiscal Year Research-status Report
新たな学校ガバナンスにおける地方教育行政の位置づけと役割に関する日英比較研究
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16K04575
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Research Institution | Jissen Women's University |
Principal Investigator |
清田 夏代 実践女子大学, 生活科学部, 教授 (70444940)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
広瀬 裕子 専修大学, 文学部, 教授 (40208880)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | 地方教育行政 / 教育再生 / 困難集中地域 / イギリス / ガバナンス / 地方当局 |
Outline of Annual Research Achievements |
平成28年度の研究実績として、研究代表者(清田)はこれまで蓄積してきた研究を小括し、今後の課題を明らかにするために論文を執筆した。それは、公共性の担保という公教育の課題に対して、地方教育行政の役割は終焉しているのか否かということを、これまで30年にわたり公教育運営における地方当局(※英国の地方教育行政組織)の役割を周辺化してきた英国の事例に基づいて再検証することを試みるものである。なお、近年、こうした動向にも変化が生じつつあるように思われる。本論文においてはさらに、近年衆目を集めている、ロンドンの一困難集中地域の地域全体を対象に行われた教育改革の成功が「地方当局」の復権の可能性を示しうるものであること、現政権の教育改革が地方当局の役割の重要性を再評価しうるものである一方で、これらに関連するいくつかの要因を慎重に検証しつつ、今後明らかにすべき課題を示した。これらの課題は今年度及び次年度の研究課題の一部でもある(なお、この論文は現在学会に投稿し、審査をまっている状態である)。 研究分担者(広瀬)は、今年度の課題として、9月に英国教育省に赴き、失敗している地方自治体の再生支援等に関する情況について聞き取り調査を行うことを目的とした重要な実地調査を行った。この調査を通じ、中央政府が失敗している地方自治体について漸次的に改革を行うという大規模な計画を立てていることが明らかになった。この調査の結果、今後この計画が具体的にどの自治体からどのような方法で進められていくのか、またその成果と課題等について検証していくことが、本研究の重要な研究課題の一つとして認識されることとなった。また、広瀬個人が本研究の開始以前から蓄積してきたロンドンのハックニー地域の現在についても継続的に調査を行い、改革成果の持続性に関する観察を行っている。今後これらの調査から得られた課題について、研究を深めていく。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
地方教育行政体である地方当局が本来担うべき役割を再確認すること、それが自己改革の契機を持つ組織となるために何が必要なのかを明らかにすること、さらにそれを可能にする学校教育ガバナンスの構造を明らかにするという最終目的のために、平成28年度の研究計画として、英国の学校関係者や地方当局の教育担当者、教育省関係者等に対する聞き取り調査や、文献収集などの研究活動を行い、これらの調査から得られた成果を論文や学会での研究報告によって公表するなどの目標を掲げていた。これらの目標に対し、研究実績の概要に示したように、研究代表者は研究経過を小括しかつ今後の研究課題を示しつつ、論文にまとめた(論文は学会に投稿し、審査をまっているところである。審査の結果にかかわらず、何らかの方法で公表する予定である)。また、研究分担者も研究テーマに関連する課題について英国で実地調査を行い、失敗している自治体に関して全国レベルの教育再生計画がすすめられていることを明らかにした。この最新の情報に基づき、今後調査の対象とすべき自治体を選定し、漸次的な調査を計画する段階に入っている。 現在、英国における自治体に基盤を置いた教育改革計画は大きく前進しており、そのこと自体が当初の想定を上回っているのであるが、本研究はそうした動向をいち早く認識し課題を整理し、検証する準備に入っている。これらの点から、本研究は当初の計画以上に進展しているといえる。
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Strategy for Future Research Activity |
平成29年度においては、前年の研究をさらに発展させる。第一に、予備的に蓄積されてきた研究に、平成28年度に行った研究から得られた知見を加えて新たに研究課題枠組みを構築し、課題設定を行い、9月に英国で本格的な調査を行う。 平成29年度に予定されていた計画として、教育水準局(Ofsted)に目を向け、その学校視察と指導による学校改善の効果について検証する。Ofstedは地方当局も査察の対象としているため、その具体的な内容と効果を検討する。また、前年度の研究から、失敗している自治体の再生策が、それまでのような特例的対応としてではなく、恒常的な教育政策の枠組みのなかに組み込まれつつあることが明らかになった。このことを新たな調査研究課題として、政府が計画している全国レベルの失敗自治体の教育再生計画の全容と実態を明らかにすることを目的とした調査研究を行う。具体的な計画としては、9月に英国での研究調査を行い、研究対象として選定した自治体を訪問し、改革の過程や実際について聞き取り調査や資料収集を行う。また、Ofstedを訪問し、先に示した課題について聞き取り調査を行う。その他、期間中に、テーマに関連した調査や資料収集を行う予定である。 調査後は調査で得られた一次資料や、文献資料などを整理し、それらを検証する。研究代表者、研究分担者のそれぞれが自らの研究課題に即して、研究成果をまとめ、学会発表や論文などの形式で公表する。また、これらの研究成果によって得られる知見に基づき、最終年度に研究すべき新たな課題枠組みを明らかにすると同時に、3年間の研究全体の目的と成果の総括を視野に入れた研究計画として計画全体を見直し、最終年度の研究課題を明らかにする。
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Causes of Carryover |
平成28年度の研究調査により、現在、英国政府が全国規模の地方教育行政及び学校教育改革を計画していることが明らかになったため、平成29年度、平成30年度に想定していた規模よりも大きな研究調査を行う必要が生じた。そのため、平成28年度の予算を節約し、次年度、最終年度の研究調査の充実に充てることとした。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
平成28年度に節約し平成29年度分にした研究費については、研究代表者、研究分担者ともに、9月に行う予定である複数の聞き取り調査や資料収集等のために使用する予定である。
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