2017 Fiscal Year Research-status Report
ドイツ周辺国におけるホロコースト教育の変化:イギリス・フランス・スウェーデンの例
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16K04596
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Research Institution | University of Tsukuba |
Principal Investigator |
柴田 政子 筑波大学, 人文社会系, 准教授 (30400609)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | 歴史教育 / ホロコースト / イギリス / フランス / スウェーデン |
Outline of Annual Research Achievements |
ドイツ周辺国3か国の現地調査のうち、第2年度の今年度はイギリスにおいて行った。また、国内における事前調査の過程で、イギリスの隣国アイルランドにもホロコーストに特化した研究・教育機関があることが判明し、現地調査に加えた。 ロンドン大学のInstitute of Education(UCL, Institute of Education)では、Centre for Holocaust Educationを通じて、特に教師教育に重点を置いたホロコースト教育・研究の実態を把握した。同大学院は母校でもあり人脈を生かし有効に活用できた。センター長であるProfessor Stuart Fosterとの面談はスケジュールの都合でかなわなかったが、資料は十分取得できた。具体的には、現役教師が受講できるオンライン講習システム、ロンドンのセンターでの研修、最終的には講習の完結プログラムとして提供されるアウシュヴィッツなどナチ強制収容所や絶滅収容所へのスタディツアーに関する詳細である。 ホロコーストには直接加担しなかったとされるアイルランドであるが、ホロコーストを普遍的な人権啓発及び平和教育の題材として捉え、国をあげての活動がみられる。2005年という設立年からみても、上記ロンドンでのセンター活動と同様、統合後のEU域内における一連のホロコースト教育拡大動向の好例として捉えることができる。首都ダブリンにあるHolocaust Education Trust Irelandでは、Dr.Aideen Stapletonを通じ情報を収集した。同機関では、国の行政機関(The Department of Justice and Equality)やダブリン市、また地元ユダヤ人諸団体と協働し、1月27日の国際ホロコースト記念日におけるイベント企画や冊子配布などを行っている。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
3か年でドイツ周辺国3か国の現地調査を行う計画であるが、第1年度の昨年度はスウェーデン及び隣国のノルウェーでの調査を終えた。中立国という理由でスウェーデンを選択したが、上記アイルランドと同様、国内事前調査の過程で、隣国ノルウェーでもホロコースト教育・研究機関があり、また活動が盛んであることが判り、同一旅程で現地調査を順調に行った。 第2年度は、上述したイギリス及び隣国のアイルランドにおける実績をあげることができた。第二次世界大戦の戦勝国であり、ホロコーストには「傍観者」的立場もしくは亡命ユダヤ人の受け入れ国としてやや一方的にドイツを糾弾してきた歴史があるイギリスであるが、本研究計画時の洞察通り、ヨーロッパ統合の政治的動向のなかで、一歩深く踏み込んだホロコーストへの取り組みが確認できた。 上記2か年における現地調査の実績から、国内事前調査の高い有用性が再確認でき、最終年度の現地調査にも大いに用いたいと考えている。 また、研究計画の発表と研究(途中)成果の発表を目的とし、当初予定の国内2件および国外2件の学会参加を果たした。そこで発表した論文のうち1本(国外学会)は、大会実行委員による査読を経てカンフェレンス・プロシーディングスに所収掲載された。また発表に対する洞察的な批評や示唆も多く受けており、最終年度の調査・研究にも最大限取り入れる計画である。
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Strategy for Future Research Activity |
本研究最終年の平成30年度は、フランスおよび隣国のスイスでの現地調査を行う。 第二次世界大戦の中立国(スウェーデン)と戦勝国(イギリス)とは異なる立場にあった国が同年度の対象国である。ドイツに対しては敗戦国でありながら、しかし戦後は連合国軍の一員として戦勝側にたったフランスは、上記2か国との比較検討として好材料であると考えている。加えて、ドイツ以外の国でホロコーストへの「加担」を国家の公式謝罪と賠償という見える形で過去と向き合い、1990年代以降のホロコースト教育拡大の口火を切った国としても外せない調査対象国であり、最終年度における成果の意義は大きい。また、中立国でありながら、ホロコーストの犠牲となったユダヤ人から没収された財産、ならびに亡命ユダヤ人たちが残した資産の隠し保有機関として機能したスイスにおけるホロコースト教育の実態調査も有効な比較検討材料と考えられ、フランスでの調査と同一旅程で実施する計画である。 上述2か年にわたる海外現地調査の実績から分かるように、特に面談を通じて情報収集する場合は、かなり前もって相手側との事前のスケジュール調整が必要であり、調整がうまくいかず、母校という利点を最大限に生かしきれなかった既述ロンドン大学の事例を踏まえ、最終年度の現地調査の旅程については、年度開始よりかなり早期の計画を既に開始している。 研究(途中)成果の発表を目的とした学会参加は、国内1件・国外1件を計画している。
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Causes of Carryover |
最終年度の平成30年度に参加する国外学会の開催地がキプロスと判明し、航空機移動を主とした旅程の複雑さと高額が予測されたため、また調査対象に加えたフランスの隣国スイスでの列車運賃また一般的物価が先進国の中でも高額であるため、平成29年度の支出を少し抑えて敢えて余剰分をつくった。
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Research Products
(3 results)