2016 Fiscal Year Research-status Report
教職の社会化過程としての「観察による徒弟制」に関する研究
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16K04604
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Research Institution | Shiga University |
Principal Investigator |
太田 拓紀 滋賀大学, 教育学部, 准教授 (30555298)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | 観察による徒弟制 / 教師の職業的社会化 / 教員養成 |
Outline of Annual Research Achievements |
一般の学校生活やそこでの教師との対面的な関わりが、教師になる者に対して特別な影響を与えると想定する「観察による徒弟制」は、教師の社会化過程として、米国を中心に研究が発展してきた。しかし、わが国ではほとんど紹介されることもなく、これに基づく実証的な研究が実施されることもきわめて少なかった。本研究課題のもと、具体的に研究をすすめる上では、海外における「観察による徒弟制」研究の進捗状況を調査し、わが国での適用可能性や応用の方向性を考察することが不可欠であると考えた。したがって、本年度は海外における「観察による徒弟制」研究の状況把握を行い、それらを整理することにつとめた。その成果は、先行研究のレビュー論文として発表した。 以上の作業から、海外の研究では「観察による徒弟制」が教員志望者に対して保守的な教職観・学校観の形成を促すとともに、生徒側の視点に基づいた教育実践のパースペクティブを生成させてしまう点が広く課題視されていることが分かった。さらに、「観察による徒弟制」の影響は非常に強固であって、養成段階で学ぶ新たな実践や指導法などを、自主的に排除してしまう危険性も多数指摘されていた。すなわち、「観察による徒弟制」は、教師に相応しいパースペクティブを獲得する際に、また、新たな教育実践の方法を習得する際に、ネガティブな効果を及ぼすとされると考えられていた。したがって、教員養成の段階では、「観察による徒弟制」の影響を克服することに留意すべきであり、そのためのプログラムも開発・実施されていることが分かった。 一方、わが国でも、教員志望者の過去の学校経験をふまえつつ、教師教育に取組もうとする大学での実践が一部でみられた。ただし、こうした養成プログラムを「観察による徒弟制」の枠組に明確に位置づけることで、その実践の意義がより一層深まり、教員養成の効果も高まるのではないかと考察した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本年度の研究における当初の目標は、海外における『観察による徒弟制』研究の進捗状況を調査・考察することにあった。また、この作業を通じて、今後の実証的な研究に生かせるようになることを目指していた。具体的には、「観察による徒弟制」に関わる著書・論文を収集し、批判的に読み込みながら、指摘されている内容を分類し、集約していった。その結果はレビュー論文として発表しており(太田拓紀,2017,「『観察による徒弟制』と教員養成における実践の問題」 滋賀大学教育学部附属教育実践総合センター『パイデイア』第25巻,pp.93-99)、一定の成果をあげることができた。日本での研究の適用可能性と応用の方向性についても考察を加えることができ、次年度以降に実施する質問紙・面接調査の大きな指針となった。 また、年度後半の目標として、翌年度に実施する大学生対象の質問紙調査を作成してプリテストを実施し、質問文や尺度の精緻化に努めることを目指していた。この点についても、実際に作業を終えることができ、調査を実施できる段階となった。
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Strategy for Future Research Activity |
今後は質問紙調査と面接調査を併用して、「観察による徒弟制」の過程で内面化される教育観・教職観とはいかなるものかを明らかにしていきたい。具体的には、まず年度当初に、教員志望の大学新入生を対象にした質問紙調査(集合調査)を実施する予定である。入学まもない 4 月に調査を行うことで、フォーマルな養成教育を受ける前の「観察による徒弟制」による純粋な社会化作用を浮き彫りにしたい。さらに10 ~20名に面接調査を実施し、質問紙調査で明らかになった特徴をより詳細に聞き取ることで、その社会化過程を一層明確にしていきたい。 さらに、「観察による徒弟制」の社会化の効果が、大学での養成や学外での教育体験、教育実習を経て、どのように変容するのかを検証するため、継続調査(パネル調査)を実施していく予定である。 以上の作業を通じて、養成以前のインフォーマルな社会化過程と、大学での教員養成というフォーマルな過程との間における、よりよい接続のあり方を考察し、教師教育研究に対して有益な知見を提供することを目指すものである。
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Causes of Carryover |
残額は1000円以下であり、おおむね今年度の使用額に達している。ただ、今年度の研究では十分にその目的を達成したこと、次年度は質問紙調査と面接調査の2つを実施し、多く支出が見込まれていることから、次年度に使用を繰り越すこととした。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
物品費として、調査票整理用のファイルを購入する予定である。
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