2016 Fiscal Year Research-status Report
地域に根ざした環境文化の世代間継承に関する環境教育研究-奄美群島の集落を事例に
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16K04611
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Research Institution | Kagoshima University |
Principal Investigator |
小栗 有子 鹿児島大学, かごしまCOCセンター, 准教授 (10381138)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | 環境教育 / 環境文化 / 人と自然の関係史 / 奄美群島 / 世代間継承 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、人間形成過程においてこれまで顧みられてこなかった自然環境との関わりの影響の解明を目的に、日本における環境教育研究の新たな方法の開発を目指している。具体的には、1953年まで米軍統治下にあったため地域開発が本土より遅れ、人の暮らしと希少種動植物が密接に関わる環境文化を誇る奄美群島の集落を事例に、その土地に生きる、又は、生きてきた青年たちの地域認識の獲得過程を世代間の比較を方法論として用いて解明を行う。 初年度は、主に二つのことについて検討を進めた。一つは、人と自然の関わりの深さを描くことが可能なキーストーンとなる指標の精選する作業である。このことを検討するために、本年度は主にア)人類学研究の知見、イ)教育学における民俗学的研究、ウ)環境教育研究のそれぞれの分野の文献・資料収集を行い、人と自然の関係についていかなる関心・切り口から人に関する記述と自然に関する記述がなされているのかを分析・考察することを試みた。もうひとつは、奄美群島地域の開発史の時期区分とそれに応じた世代区分の仮説設定に向けた作業である。このために本年度は、奄美群島の社会経済状況の推移を把握するための統計・行政関連資料を中心に収集、整理を進め、また、奄美大島と徳之島の二つの島について、シマ(集落)ごとの特徴を把握するために複数のキーパーソンと面談し、本人、および、当該集落の人と自然の関わりの生活史のヒアリングと郷土資料関連の文献収集を行った。 これらの結果見えてきたことは、世代間だけでなく都市と農村集落という地域間にも人と自然の関わりの変化・断絶があり、生活・産業インフラ整備に伴う生業のあり方の変化にもタイムラグがあることだ。また、キーストーンとなる指標に関しては、人と自然の関わりを象徴する猛毒蛇ハブに注目することの可能性を見出し、今後は他の指標設定の可能性と合わせてさらに精査していく必要がある。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
研究実績の概要でも述べた通り、本年度は、次にあげる主に二つのことについて検討を進めた。一つは、人と自然の関わりの深さを描くことが可能なキーストーンとなる指標の精選する作業であり、もう一つが、奄美群島地域の開発史の時期区分とそれに応じた世代区分の仮説設定に向けた作業であった。 まず前者については、ア)人類学研究の知見、イ)教育学における民俗学的研究、ウ)環境教育研究の各分野の文献・資料収集を行った。ア)については、主に環境学を中心とした離島研究に焦点を当てて文献収集と整理に当たった。イ)については、習俗としての教育研究の先駆者である太田堯を中心に整理を行った。ウ)については、欧米の最新の環境教育研究の動向をフォローするための文献収集を行った。今後は、ア)とイ)をつなぐために教育人類学分野にも射程を広げ、ウ)については、先住民環境教育研究により焦点を絞っていくことが必要になる。 後者については、奄美群島の社会経済状況の推移を把握するための統計・行政関連資料収集と整理、並びに、奄美大島と徳之島の二つの島について、シマ(集落)ごとの特徴をつかむために、山と海にかかわりを持つ異なる世代、異なる地域、異なる職業・分野等のキーパーソンに予備調査を行った。また、奄美地域の郷土史関連資料の収集・整理を行った。 ところで、本研究は当初、研究代表者と一緒に平成24年度より共同調査を実施していた奄美市立博物館の元館長の中山清美氏(平成20年度から3年間「文化財総合的把握モデル事業」(文化庁)の選定を受け、広域市町村圏として「奄美遺産」の調査研究を行った中心人物)の全面的協力を得る予定だった。しかし、平成28年7月に突然逝去されるという不慮の事態に直面した。研究が本格始動する直前に氏を失い、当初予定していた調査地や協力体制を修正することを余儀なくされた。
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Strategy for Future Research Activity |
今後は、本年度手掛けた「人と自然の関わりの深さを描くことが可能なキーストーンとなる指標の精選」作業をさらに進め、異なる世代・地域を対象としたライフヒストリー調査が可能となるヒアリングフォーマット(質問票等)を作成することが必要となる。また、「奄美群島地域の開発史の時期区分とそれに応じた世代区分」については、ヒアリング調査が可能となる範囲で地域選定を行うことが必要で、選定の妥当性について今後より緻密に時期区分整理を行う必要がある。 また、本研究がテーマに設定する「環境文化の世代間継承」に関する研究は、カナダ先住民環境教育研究が先駆的でその成果を応用することを計画しており、研究の中間報告の意味で第9回世界環境教育会議(カナダ・バンクーバー)に参加し、個人発表を行うとともに、先住民環境教育研究者らとの研究交流を予定している。そこで、今後は主に研究方法論の観点からカナダとの研究交流を深め、今後の研究を進めていきたい。 同時に、現在までの進捗状況で述べた通り、共同研究者として予定していた中山氏に代わり奄美の環境文化の観点から共同研究を進められる地元郷土史家との交流促進を進める必要がある。また、一つの指標候補としてハブを選定することにより、東京大学医科学研究所附属奄美病害動物研究施設の研究者にも協力してもらい研究を進めていく。
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Causes of Carryover |
研究協力を予定していた中山清美氏の逝去する事態に見舞われ、当初予定していた現地調査等の変更を迫られた。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
今年度は、奄美博物館・同笠利分館、東京附属奄美病害動物研究施設等に協力していただき、現地調査のための体制を整え、集中的に調査に当たる予定である。
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