2018 Fiscal Year Research-status Report
地域に根ざした環境文化の世代間継承に関する環境教育研究-奄美群島の集落を事例に
Project/Area Number |
16K04611
|
Research Institution | Kagoshima University |
Principal Investigator |
小栗 有子 鹿児島大学, 法文教育学域法文学系, 准教授 (10381138)
|
Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2020-03-31
|
Keywords | 環境文化 / 奄美群島 / 身体性をもつ主体論 / wild pedagogy / 環境認識 / 感性 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、人間形成の過程においてこれまで顧みられてこなかった自然環境との関わりの影響を解明することを目的に新たな環境教育研究の方法を開発することを目指している。本年度は、昨年度渡加した際に指摘を受けた方法開発の問題を踏まえて、改めて方法枠組みの見直しを行った。その結果、「身体性をもつ主体論」という新たな概念を導入することで、日常的な体験の積み重ねにより身体に埋め込まれた感性や意識に及ばない知識などの習得・習得過程に焦点をあてる分析枠組みを設定し、地域認識に至る影響を捉える方法を構想した。また、生態人類学や環境民俗学の知見を応用して、環境認識のレベルだけでなく、環境に働きかけるレベル(作用)や共同性のあり方を一体的にとらえることで、環境文化の継承と創造の主体を具体的に把握する枠組みを設定した。 これらの考察は、日本環境教育学会第29回研究大会において「環境教育研究における「身体性」論不在の問題」として発表するとともに、現在「「身体性をもつ主体論」不在の環境教育研究の課題」として論文にまとめる作業に着手している。 一方、方法枠組みを用いて研究を進めるフィールドについては、研究代表者がかかわる鹿児島大学環境学プロジェクトの活動の一貫として前進させることができた。2017年度に引き続き今年度は、3つの市町村における集落(龍郷町・秋名幾里集落、奄美市住用町・市集落、大和村・国直集落)を事例にして、若者世代と古老世代、地元民と移住者(Iターン者・Uターン者)の間で環境文化がどのように継承・発展しようとしているのかについて検討を行った。また、本研究で扱う環境文化の概念理解についても地元の方との議論を通して深めることができた。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
4: Progress in research has been delayed.
Reason
共同研究者に関する不測の事態(急死)により、研究枠組み(指標)とフィールドの選定が当初の計画どおり進まなかった経緯があり、その遅れがほかの要因も重なり研究全体の遅れを招いている。その他の要因としては、一つには、代表者の所属変更による業務の多忙化、もうひとつは、昨年度渡加した際に指摘を受けた方法論の見直しが生じたことである。
|
Strategy for Future Research Activity |
次年度は、前半に現在執筆中の「「身体性をもつ主体論」不在の環境教育研究の課題」の論文を発表するとともに、ここで明らかにした枠組みを用いて調査するフィールドの予備調査を行う。論文にまとめた方法枠組みについては、8月下旬に開催される「WILD PEDAGOGIES: A WALKING COLLOQUIUM, IN FINSE, NORWAY」に持ち込み、参加者に検討してもらう。後期はサバティカル期間となるため集中的にフィールドに入りデーターを収集する。そのとりまとめを11月3日から開催されるWorld Environmental Education Congress 2019において発表する。その結果を受けて、引き続きフィールドに入るとともに、12月にはカナダに渡航し、先住民環境教育研究の専門家らと本研究について検討してもらう。1月以降は、研究の取りまとめのための執筆活動に集中する。なお、次年度は、奄美における環境文化に関する書籍を発刊する予定をしており、研究成果を盛り込むこととする。
|
Causes of Carryover |
研究の遅れにより、フィールド先の協力者との共同調査が進まなかったことに加えて、予定していたカナダ環境教育研究者との研究交流を見送ったことが要因で次年度使用額が発生した。次年度は、フィールド調査、及び、海外(ノルウェー、タイ、カナダ)での研究発表を行う予定である。
|