2016 Fiscal Year Research-status Report
21世紀型コンピテンシーと民主的シチズンシップの育成に関する比較教育学的研究
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16K04624
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Research Institution | Sophia University |
Principal Investigator |
澤田 稔 上智大学, 総合人間科学部, 教授 (00367690)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | コンピテンシー / シチズンシップ教育 / 批判的教育学 / カリキュラム / 教育方法 / 民主主義 |
Outline of Annual Research Achievements |
文献研究に関しては、カリキュラム理論史を俯瞰することで規範的カリキュラム論の理念型を抽出し、批判的教育学のカリキュラム理論史における位置付けを明確化しつつ、批判的教育学の理論的な意義と課題をN.フレイザーの政治哲学的議論(「再配分の政治」と「承認の政治」という正義論の概念)を参照することによって整理した上で、今後あるべき批判的教育学の方向性に関する理論モデルの構築を試み、さらに、その理論モデルに親和的と考えられる実践事例を具体的に分析する作業を進めた。これらを通して、21世紀型コンピテンシー論に基づいて社会適応・地位達成の実現を目指す教育だけでなく、民主主義社会における、より積極的で活動的な主体性の涵養を目指す批判的市民性教育の可能性についても論究した。 また、この探究の理論的基盤を整備する作業の一環として、現代における批判的教育学の最前線に関する情報を、関連事典の翻訳を通して収集した。さらに、教育社会学の事典論考作成作業を通じて、批判的教育学の最も主要な理論的源泉であるネオ・マルクス主義思想・理論の系譜を整理した。 実地調査に関しては、21世紀型コンピテンシー論とみ主的シチズンシップ教育の実践的な両立可能性を探るために、ニューヨークのCentral Park East 1小学校、およびボストンのMission Hill Schoolでの訪問取材を実施した。他方、日本の教育現場での授業研究にもアクション・リサーチ的に関わることで、具体的かつ質的な情報を収集した。 これらの成果発表に関しては、文献研究に基づく学会誌論文の執筆、翻訳書刊行が主なもので、実地調査の成果に基づく論文執筆は今後の課題として残った。他方で、21世紀型コンピテンシー論に関する批判的考察のために、PISAの批判的検討をテーマとしたシンポジウムや学会課題研究を企画・実現した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
実地調査によって得たデータを直接用いた論文執筆には至らなかったが、そこで得た知見を間接的に活かすと同時に、一定の詳細な文献研究に基づく論文を学会誌上に発表できたこと、また、この科研研究の理論的な基盤の重要な一部を構成する批判的教育学の国際的な研究動向に関する浩瀚な事典を、監修担当として上肢できた点では順調に成果を上げることができた。 アメリカ(ボストン)における実地調査で得たデータの整理やその分析、さらに、日本の学校現場で取り組んでいる授業研究で得たデータや知見に基づく論考をものすることはできていないので、この点は今後の課題である。
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Strategy for Future Research Activity |
上に記した今後の課題に則して、アメリカにおける実地調査で得た資料やデータに基づく考察、および、日本の学校現場で取り組んでいる授業研究で得たデータや知見に基づく考察を何らかの論考としてかたちにする必要がある。さしあたり、前者に関しては、21世紀型コンピテンシー論や民主的なシチズンシップ教育の実践的展開を支えるエビデンスの捉え方に関して、学力テストなどの量的データとは異なる質的なデータの教育行政上の扱いに着目した論考をまとめたい。現代の教育改革ではエビデンス・ベースという目標が掲げられ、学校現場にもその教育成果を、信頼に足るエビデンスに基づいて報告することが求められるが、そこで質的データを重視することの意義や可能性はどのように考えることができるのか、という点に関する考察をまとめたい。他方、日本の学校教育における授業研究に関しても、同様の考察を試みたいが、学校現場の教員との共有を意識して、研究論文というスタイル以外の表現方法(ストーリーやナラティブと呼びうるもの)も視野に入れたい。 こうした教育改革におけるエビデンス論という点で、現代先進諸国で無視できない影響力を持っているのがOECDのPISAである。昨年度は、主に国内の研究者とPISAをめぐる諸文脈を批判的再検討に付すためのシンポジウムや学会課題研究を組織したが、今年度は海外から研究者も招いて議論する国際的なシンポジウムを企画・実現し、21世紀型コンピテンシー論や民主的なシチズンシップ教育の両立可能性を探究する上で、こうした国際比較学力調査をめぐる諸問題をどう捉えなおすべきかという問題に取り組む。 他方、各国の教育改革において、公教育の再編、あるいは、教育における公私関係の編み直しが進む中で、そこに「福祉 well-being」の要素をどう織り込んで行けるのか・行くべきかという視角を新たに取り入れた考察も開始したい。
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Causes of Carryover |
年度末に実施予定であったアメリカ調査旅行を、体調不良のため中止にせざるをえなかったため。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
再度、アメリカでの実地調査旅費に運用する予定である。
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