2016 Fiscal Year Research-status Report
都市-地方間の流動性の違いから見た地域の異文化受容の課題と異文化間教育
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16K04626
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Research Institution | Tokai University |
Principal Investigator |
山本 志都 東海大学, 文学部, 教授 (30336424)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
猪原 龍介 亜細亜大学, 経済学部, 准教授 (20404808)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2020-03-31
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Keywords | 異文化コミュニケーション / 異文化感受性 / 都市経済 / 異文化間教育 / 異文化間能力 |
Outline of Annual Research Achievements |
平成28年度においては大きく2つのことが達成された。 1つめは、異文化感受性の発達で高位の水準における能力にあたる「寛容性」を経済学的な枠組みから検討するために、Ihara & Yamamoto(2016)による寛容性の選択モデルを異文化コミュニケーションの文脈から再解釈し発展させたことである。この結果を多文化関係学会の第15回年次大会(佐賀大学)にて「寛容性の選択モデルが示す異文化間教育の意義:経済学的アプローチ」という題で研究報告した。 Ihara & Yamamotoでは、コミュニケーションにおける寛容性の役割を数理的に分析する経済学の基礎研究を行った。その結果、相手の寛容性と自分の寛容性の関数である「開放性(openness)」を横軸に、また開放性と「異質性(difference)」の程度からコミュニケーションの量が選択され、そのコミュニケーションを実際に取ったと仮定した場合に得られる充足感(効用水準)を縦軸にしたときに、効用曲線(間接効用)の出現に4つのケースがみられた。このうち異質性の程度が中程度に高い場合という現実に近いケースの状況下でのコミュニケーションでは、複数均衡の存在が示された。この結果を異文化コミュニケーションの文脈で再度検討し、相手の示す寛容性が一定の閾値を超えることが相互のコミュニケーションを活発化するという境界を「寛容性境界」と命名した。高い寛容性と言わずとも一定以上の寛容性を社会の多くの人が持てる教育が重要という示唆を得ることができた。 2つめは、異文化感受性発達モデルの提唱者であるミルトン・ベネット博士を招へいしての研究会を行ったことである。現状の異文化コミュニケーション教育や多文化教育が相対主義で行き詰っていることに対し、構成主義的アプローチが有効であることを確認し、異文化感受性もその観点で再検討されるべきという課題が共有された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
平成28年度は研究に一定の進展が見られたものの、異文化感受性発達モデルの提唱者であるミルトン・ベネット博士との研究会を経て、異文化感受性の研究について、当初の計画を見直し方向修正しなくてはならない部分もあるのではないかということを考えている。しかし、それによって、より現実の社会や異文化コミュニケーション教育・異文化間教育に役立つ示唆が得られるのではないかと思えることから、当初の計画に新たな側面を加えて修正しながら研究を進展させていくことは有効であると考える。
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Strategy for Future Research Activity |
平成29年度においては、昨年度までの研究に基づき、本研究の目的を達成するための調査実施方法を最適化することをはかる。新たに有効と考える研究手法であるPAC分析法などの質的研究を優先的に行いたい。PAC分析手法は個人の態度を構成主義的に明らかにする方法であり、異文化感受性を日本文化の文脈からイーミックに精緻化していくことに有用である。また、異文化感受性の理論とその教育への応用について引き続きミルトン・ベネット博士と連携を取りながら議論を進めていきたい。本年度においてもこの側面からの研究をすすめ、研究会や研究報告を行うことで研究を推進していきたい。
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Causes of Carryover |
本年度のインタビュー調査では、科研費から支払うべき謝金が発生せずに済んだ。また、ミルトン・ベネット博士をイタリアから招へいするためにともなう旅費と滞在費について、ベネット博士がこちらへの配慮から格安の飛行機に搭乗されたため、経費が予測よりも下回っていた。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
本年度も引き続きインタビュー調査を行うため、その経費として使用したい。また、ミルトン・ベネット博士を招へいしての研究会も継続したい。
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