2016 Fiscal Year Research-status Report
格差社会におけるリスク生徒の学力・進路保障の研究-カナダの包括的支援と比較して-
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16K04631
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Research Institution | Toyo Eiwa University |
Principal Investigator |
佐藤 智美 東洋英和女学院大学, 人間科学部, 教授 (80240076)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
山村 滋 独立行政法人大学入試センター, 研究開発部, 教授 (30212294)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | パスウェイズ・トゥ・エデュケーション / パスウェイズ・キッチナー / パスウェイズ・プログラム / 中等学校中退率 / 勧修中学校 / 学習会 / コライゾン |
Outline of Annual Research Achievements |
平成28年度はカナダ・オンタリオ州のキッチナーのパスウェイズを訪問し、2つの低所得コミュニティにおいてパスウェイズ・プログラム実施現場を観察した。2つのコミュニティはキングスデイルとシャンドレ-モアであり、2007年にプログラムの実施母体をコライゾン(Carizon)に置いて支援が開始された。コライゾンはおよそ60年に渡って、キッチナーとその周辺地区で子ども、青年、高齢者、家族、移民など様々な困難を抱えた人々にカウンセリングや活動機会を提供し、住民の健全健康な生活を推進してきた。 パスウェイズ・プログラムによる支援が実施されている2つのコミュニティのうち、キングスデイルはカナダへのニューカマーが多いコミュニティであり、もう1つのシャンドレーモアは南米から移民し、何世代もの間貧困の中にいる住民が多い。パスウェイズ・キッチナーでは、2つのコミュニティの生徒が直面する問題を理解し、プログラムによる支援によって生徒の自己肯定感を高めるよう努めている。2007年の支援開始時には、100人の生徒が支援に参加したが、2016年現在では602人の生徒が参加している。決められた地理的範囲内に居住する生徒の90%以上が参加している。 キッチナーでプログラムに参加している生徒は、その社会的、経済的、文化的な不利にもかかわらず、学業上の成功を収めつつあり、不利を抱えていない生徒とのギャップを縮めつつある。パスウェイズ・キッチナーのスタッフによると、プログラムによる支援が子どもの貧困を解決するすべてではないが、重要な一部であると考えている。 さらに、京都市の勧修中学校での学習会は従来の3年生のみの支援に加え、1、2年生も支援対象となり、学習会が定着しつつある。学習上の効果のほか、ボランティアとの関わりが形成され始めており、学校での授業中の学習姿勢にも変化が現れつつある生徒もいることが確認できた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
パスウェイズ・トゥ・エデュケーションのプログラムを実施しているコミュニティとして、オンタリオ州内のキッチナーを訪問し、プログラム実施現場を観察することができた。キッチナーでは、2つの低所得コミュニティの生徒を支援対象としており、この2つのコミュニティの住民にはそれぞれ異なった特性があり、パスウェイズ・キッチナーでは、その住民の社会的、文化的特性に合わせたボランティア構成をしている。パスウェイズ・プログラムが、コミニティごとの特性を考慮した支援体制をとる努力をしていることが理解でき、このような知見が得られたことは有益であった。 また、パスウェイズ・プログラムの実施母体となっているコライゾンは、プログラムを実施する以前から長期に渡ってすでにその周辺地域において子ども・青年・家族・高齢者・移民を対象とした様々な支援活動を行っており、支援団体として地域社会における安定的な地位を維持している。このような地域社会における支援組織や団体が住民の日常生活の中に定着し、多様な支援や活動機会を提供している状況を観察できたことも意義深い。 京都市の勧修中学校では、これまでの学校長が他の中学校に異動となり、年度初めには学習会の継続に関して多少の不安が生じたものの、新学校長の下でこれまでどおり継続が可能となり、学校側の協力が得られた。地域住民による支援内容にも向上が見られるなど、全体としては学習会の進展があったと言える。地域住民のボランティアとしての意欲も高く、さらなる支援内容や方法の向上が期待できることが分かった。
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Strategy for Future Research Activity |
パスウェイズ・トゥ・エデュケーションは、2016年現在では、カナダ全土の18の低所得コミュニティで支援プログラムを実施している。その実施母体である組織や団体は、パスウェイズ・プログラムの4つの主要な支援の柱はそのままで、地域社会の多様な住民の特性に適合した内容を加えている。たとえば、ボランティアの構成を住民の社会的、文化的特性に合わせるなどである。18のプログラム実施コミュニティの中には、先住民が圧倒的に多い地域やフランス語圏の中の地域など、これまでに我々が観察していないコミュニティが含まれている。それらコミュニティでは、生徒や家族の要望や必要性によって、他のコミュティでは実施されていない夏休みのような長期休暇中の支援が計画されている。今後はこのようなコミュニティごとの需要に合わせた支援方法にも理解を深める。 さらに、パスウェイズ・プログラムの実施母体として認められる支援団体や組織の地域社会における活動内容全体にも注目する。なぜならば、多くの支援団体や組織の場合、パスウェイズ・プログラム導入以前からすでに地域社会において住民のための支援活動の歴史と実績があり、その事実がパスウェイズ・プログラムの導入を容易にしているのみならず、従来の支援活動とともにさらなる成果を出せる可能性があるからである。 また、日本社会における学習支援をはじめとした子ども支援について、京都市の勧修中学校の学習会や山科青少年活動センターにおける青少年のための支援活動等に参加しながら観察することによって、今後の支援についての提言が可能になると考える。
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Causes of Carryover |
次年度使用額が生じたのは研究分担者である山村滋の国内旅費が予定額より少なくて済み、他の物品費や人件費にも使用することがなかったためである。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
次年度使用のための計画としては、国内外の調査・研究費の一部として使用する予定である。
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Research Products
(2 results)