2017 Fiscal Year Research-status Report
格差社会におけるリスク生徒の学力・進路保障の研究-カナダの包括的支援と比較して-
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16K04631
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Research Institution | Toyo Eiwa University |
Principal Investigator |
佐藤 智美 東洋英和女学院大学, 人間科学部, 教授 (80240076)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
山村 滋 独立行政法人大学入試センター, 研究開発部, 教授 (30212294)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | パスウェイズ・トゥ・エデュケーション / パスウェイズ・ハリファックス / カナダ・ノバスコシア州 / 地域基盤支援 / 学習支援 / チェブクト / 勧修中学校 / 学習会 |
Outline of Annual Research Achievements |
平成29年度には、カナダ・ノバスコシア州の地域基盤の包括的支援について調査を実施した。ノバスコシア州の子どもの貧困率は20%を超えており、2014年の同州の報告書によると、カナダ10州のうちで3番目に高く、カナダ全体の平均をも上回っている。ノバスコシア州の州都であるハリファックスの世帯の食料上の不安定さはカナダの他の33都市部地域と比べても最も高い。今回の調査はハリファックスにおいてパスウエィズ・トゥ・エデュケーション(Pathways to Education, 以後、パスウェイズ)が学習支援を行っている現場を観察し、スタッフに聞き取りを行った。調査地の州都ハリファックスの子どもの貧困率は2014年の報告書では18.6%であり、州内では相対的に低い。同州の子どもの貧困率は深刻と言える。 パスウェイズ・ハリファックス(Pathways Halifax)は2010年にスプレイフィールド地域にチェブクト(Chebucuto)という既存の地域支援組織を支援プログラム実施母体として設立された。支援対象範囲の多くの中等学校の生徒が参加しており、平日の時間帯を3区分して、学習支援を行っている。生徒たちはどの時間帯に学習に来るのも自由であるため、放課後直後の時間帯が最も参加が多く混雑する。参加している生徒たちによると、パスウェイズによる支援が非常に役立っているという。課題としては、学習支援が行われているパスウェイズの場所が交通事情が必ずしも良いとはいえず、支援ボランティアの採用には困難を伴うことである。 また、京都山科の勧修中学校での学習会は、1年生からの参加者も増え、生徒たちの居場所としての位置をも築きつつある。この学習会の恒常的課題は学校管理に関わることにある。支援が校内で行われているために、毎年度末の教員異動に影響され、支援に対する理解と協力を毎年度初めに確認する必要がある。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
カナダにおいて子どもの貧困率の高い州でのパスウェイズ・トゥ・エデュケーションを調査する計画であり、今回はノバスコシア州のハリファックスにおけるスプレイフィールド地域での支援現場で聞き取りを実施した。パスウェイズ・ハリファックスのスタッフは調査に非常に協力的であり、ダルハウジー大学にあるリジリエンス・センターとその功績に関する情報も入手することができた。 日本国内においては、京都山科の勧修中学校での学習会は学習支援そのものに加え居場所的な役割も果たしている。地域住民のボランティアとしての関わりは常に積極的であり、今後のいっそうの支援体制の強化についての仕組みが必要であろう。 以上、おおむね、研究は順調と捉えている。
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Strategy for Future Research Activity |
次年度には、カナダ・ケベック州においてパスウェイズのプログラムによる支援を展開しているモントリオールでの調査を行う。ケベック州はカナダの他州とは異なり、高等教育進学のためにはセジェップという予備課程を経なければならない。したがって、パスウェイズが掲げている排除された生徒の高等教育への進路選択を可能にするという目標はその事情に適合した創意工夫が付加されていると考えられる。モントリオールでは3か所でパスウェイズのプログラムによる支援が行われているが、ベルダン地区ではケベック州で最初にプログラムが開始されており、リスク生徒の学力・進路保障において著しい成果を上げている。このような顕著な成果を上げることができた背景には、パスウェイズのプログラムの完成度に加え、地域特性を組み入れた支援が高等教育への進路を拡大したと考えられる。この成果に影響を及ぼした要因について、ベルダン地区のパスウェイズとホスト組織であるトゥジュール・アンサンブル(Toujours ensemble)において詳細な聞き取りと支援活動を参与観察する計画である。 京都山科の勧修中学校において学習支援を受けた卒業生を追跡して、その後の進路について分析する。卒業生に聞き取りを行い、支援内容や方法について振り返ってもらい、今後の支援のあり方を検討する予定である。 最終年度にあたり、収集した情報の分析を深め、日本の現状と今後を多面的に検討し、山科地区で提言するとともに、学会、論文、報告書で発表する。内容には、日本の今後の子ども支援の可能性に関する提言や提案を含めていきたい。
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Causes of Carryover |
研究はこれまでほぼ順調に進行してきたが、主に人件費や物品費が予定より低額ないしは使用しなかったため、結果として節約となった。次年度には、研究上の総括が必要となるため、追加の出張等が生じる可能性が高く、次年度の研究費の一部として使用する予定である。
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Research Products
(1 results)