2016 Fiscal Year Research-status Report
議論コンピテンシーを育成する社会科ワークショップ型授業の単元開発
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16K04656
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Research Institution | Yamagata University |
Principal Investigator |
江間 史明 山形大学, 大学院教育実践研究科, 教授 (20232978)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | 教育学 / 社会科教育 / コンピテンシー / 議論 / ワークショップ型授業 / 単元開発 |
Outline of Annual Research Achievements |
平成28年度の研究実績は、次の通りである。 第1に、議論コンピテンシーの対話スキルについて、「熟考」と「説得」をとりあげて単元開発を行った。資質能力ベイスの社会科単元は、「個別の事実等に関する知識のみならず(中略)社会の中で汎用的に使うことのできる概念等に関わる知識を獲得することが求められている」(中教審答申2016年12月)ものである。これは、社会科の本質に関わる「概念」を議論コンピテンシーを運用する問題解決の文脈で活用できることを意味する。 以上から、「熟考」の対話スキルについては、単元「江戸日本橋空き店舗出店計画」(中2歴史)を開発した。ここでは、近江商人の「三方よし」概念の活用を位置づけた。「説得」の対話スキルについては、主権者教育の文脈で、「公正」概念を位置づけた単元を開発した。「元老院『徴兵令改正』ディベートをジャッジしよう」である。なお、小学校については、「環境への負荷」概念を活用する単元「水道水、下水、ごみから環境を考える」(小4)を開発した。単元の追究活動を、子どもが「自ら振り返り意味付けたり」する表現活動を位置づけたものである。 第2に、子どもの思考指導において対話やメタ認知を先進的に実践している富山市立堀川小学校を訪問調査した。子どもの語るエピソードを教師が掘り下げ、概念を深くすることで、子ども同士の対話が広がる事実を見出すことができた。この結果、子どもが「自分だったら」という視点の転換の方法をゆっくりと身に付けていくことが判明した。 第3に、開発単元について、全国社会科教育学会(兵庫教育大、10月)と日本社会科教育学会(弘前大、11月)で発表し、論文にまとめた。2017年3月に、上條晴夫東北福祉大教授を招いて、平成28年度の研究成果を検討する報告会を山形大で開催した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究は、社会科で学習者に身に付けさせるべき資質能力として、交渉・説得・探究・熟考といった対話スキルを自覚的に運用するコンピテンシーを定め、これを「議論コンピテンシー」と名付けた。本研究の目的は、この議論コンピテンシーを育成する単元を開発し、コンピテンシー(資質能力)ベイスの新たな社会科カリキュラムのあり方を提示することにある。平成28年度の達成度の理由は、次の2点である。 第1に、「熟考」の対話スキルと資質能力ベイスの単元開発への示唆をまとめた論文を執筆し、査読をへて掲載された。単元開発への示唆とは次の2点である。一つは、単元を「概念」と中核にとりまとめて、「思考力・判断力・表現力等」を活用する学習活動の文脈を設定すること。もう一つは、「議論する力」を対話スキルとして明確化し、それらを多様な表現を通して育成することである。筆者の「概念」を明示する単元開発の方略については、池野範男広島大教授より、概念よりもメタファーを重視する方が、学習内容の構造化に資するのではないかというコメントがよせられている。この概念メタファーの論点や、概念や対話スキルの系統的配置など社会科カリキュラムへの具体化は、平成29年度への課題としたい。 第2に、「説得」の対話スキルについては、論文を学会誌に投稿したが、採択に至らなかった。ディベートのジャッジが「公正」概念にもとづく政治的判断に有効であることは認められたが、社会科の主権者教育のカリキュラムにどう位置付けるかについて、十分な論拠をもって主張されていないと査読で判断された。さらに単元開発をすすめ、論証の精度をあげることが、平成29年度の課題である。
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Strategy for Future Research Activity |
平成29年度は、次の3点にわたって、研究を進める。 第1に、単元開発についてである。「説得」の対話スキルについて、ディベートのジャッジと「公正」概念に焦点をあてた単元開発をさらにすすめる。「18歳選挙権の導入」についての国会審議を素材にしたディベート・シナリオを開発し、実験授業を行うことを予定している。実験授業は、山形大附属中で行う。この結果と分析を加えて、「説得」の対話スキルについての論文を再構成し、学会発表と学会誌への投稿を行う。「探究」の対話スキルについては、防災をテーマに、小学校社会科で単元開発をすすめる。実験授業は、山形大附属小を予定している。 第2に、資質能力ベイスの単元をもとに社会科カリキュラムを構築する研究をすすめる。単元の中核となる社会科学習に本質的な「概念」と「メタファー」や、その系統的配置の検討をすすめる。「民主制」「公正」「環境(負荷)」などの概念に焦点をあてる。それらをとりまとめた「概念」ベイスの社会科カリキュラム試案の作成を試みる。 第3に、学校調査と研究成果の発表・まとめである。学校調査では、子どもの語りの内省と対話スキルの育成をすすめる富山市立堀川小学校を平成28年度に継続して訪問し、授業参観と研究協議を行う。研究成果については、日本社会科教育学会(千葉大学、9月)と全国社会科教育学会(広島大学、10月)で行う。平成29年度末には、29年度の成果と課題を明らかにするために、研究報告会を山形大で開催する。上條晴夫東北福祉大教授をコメンテーターとして招請する。
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Causes of Carryover |
平成28年度は、単元開発した実験授業のデータ収集にあたり、抽出児及び抽出グループの映像記録とワークシートの記述を中心とした。そのため、教室内の全グループを記録する台数の小型ビデオカメラを整備しなかった。その分が、物品費において未使用額となっている。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
平成29年度は、小型ビデオカメラを整備し、ワークショップ型授業の活動(思考)空間における児童生徒の発話データを、教室内の全グループから収集する体制を整える。それにより、よりダイレクトに生徒の思考を捉えることが可能になり、開発単元にもとづく研究報告の論証の精度をあげることができる。
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