2017 Fiscal Year Research-status Report
議論コンピテンシーを育成する社会科ワークショップ型授業の単元開発
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16K04656
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Research Institution | Yamagata University |
Principal Investigator |
江間 史明 山形大学, 大学院教育実践研究科, 教授 (20232978)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | 教育学 / 社会科教育 / コンピテンシー / 議論 / ワークショップ型授業 / 単元開発 |
Outline of Annual Research Achievements |
平成29年度の研究実績は、次の通りである。 第1に、中核概念として「民主主義」の活用を取り上げ、「熟考」の対話スキルを位置づけた単元を開発した。「小学校で教える歴史人物43人目を選べー近代後半の国会議員の中からー」である。中3歴史の実験授業を通して、生徒が民主主義概念を、「少数意見の尊重と実行した実績}など独自の判断枠組みとして明確化したことが明らかになった。 第2に、「説得」の議論コンピテンシーについて、中学公民でのディベートのジャッジを位置づけた単元を開発した。小売店の深夜営業禁止の是非を主題にしてディベートのシナリオを教師が提示し、生徒はジャッジに特化して判断を行うものである。実践の結果、生徒の思考に、個人の私的判断と国の政策としての判断の分化が認められた。さらに、その政策判断において、深夜営業の問題の多面性を認めたうえで、何を最優先するかを明確にする必要性に生徒は気づいていた。 第3に、メタ認知を促すコンピテンシー・ベイスのカリキュラム学校調査として、富山県富山市立堀川小学校及び長野県岡谷市立神明小学校を調査した。堀川小では、小4の食品ロスの単元を11月と2月の2回調査し、社会問題の構成的な性質に子どもが気づいていく様子とそのための文脈づくりに示唆を得た。神明小では、小6の縄文のくらしをつくる実践において、子どもが理解したことを「わかったつもり」であったと気づいていく思考の連続性について貴重なデータを得た。 第4に、開発単元について、日本社会科教育学会(千葉大学、9月)と全国社会科教育学会(広島大学、10月)で学会発表を行った。日本社会科教育学会の発表内容は、学会誌に投稿し、審査中である。2018年3月に、守康幸宮城教育大学附属中教諭を招いて、開発の遅れている中学校経済分野のワークショップ型授業を検討する研究会を山形大で開催した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究は、社会科で学習者に育成する資質・能力として、4つの対話スキルを自覚的に運用できる能力を定め、これを「議論コンピテンシー」と名付けた。4つの対話スキルとは、交渉・説得・探究・熟考の4つである。本研究の目的は、この議論コンピテンシーを育成する単元を開発し、資質・能力ベイスの新たな社会科カリキュラムのあり方を提示することである。平成29年度の達成度の理由は、次の通りである。 第1に、これまでの研究成果から、本研究の単元開発の基本デザインが明らかになりつつあることである。それは、社会科に対応する専門分野で行われる「活動」を軸に、それと組み合わせられるように教科内容を構造化し、学習者の知識の質をあげる文脈(コンテクスト)をつくるということである。 この「活動」として、政策ディベートのジャッジ(判定)をするという活動や、優先順位をつけて政策を関連づける活動を位置づけた単元を開発してきた。これらの活動にかみあうように、教科内容をディベートのフォーマットに形式に整理したり、優先順位を考えられるように選択肢の形にしたりする構造化を試みた。この結果、知識の質の向上という点では、社会的事象そのものを多面性を有するものとして学習者が理解していくことが明らかとなっている。これは、スキルや能力としては、「多角的に見る」という社会科に本質的な「見方・考え方」を学習者が身に付けていくことを意味する。 以上のカリキュラムデザインにもとづいて、社会科歴史ディベートのジャッジに関する論文を再度まとめなおし、学会誌に投稿することができた(2018年5月現在、審査中)。 第2に、特に、「探究」の対話スキルについての単元開発にやや遅れが見られる点である。学校調査などで「探究」の事例のデータは蓄積しつつあるが、その活動にかみ合わせる教科内容の構造化の点で、さらに研究を進める必要が明らかになっている。
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Strategy for Future Research Activity |
平成30年度は、次の3点にわたって、研究を進める。 第1に、単元開発についてである。「探究」の対話スキルについて中3公民での単元開発を進める。この対話スキルは、理論的課題に対する仮説の生成と検証を進める点に特徴を持つ。仮説生成のためには、C.パースのアブダクションの論理を組み込む必要がある。テーマは、「民主制」とし、プラトンの国家論の民主制批判を検証する内容を考えたい。実験授業は、山形大学附属中で行うことを予定している。 第2に、これまで開発した単元について、単元の軸となる対話スキルと、それに組み合わせる教科内容の構造化、それによる知識の質の向上(社会科に本質的な概念の活用)という3つの点から整理を加え、議論コンピテンシーを育成する社会科カリキュラム試案を構築する研究を進める。 第3に、学校調査と研究のまとめについてである。学校調査では、子どものメタ認知と思考の連続性を促すカリキュラムを先進的に進めている富山県富山市立堀川小学校と長野県岡谷市立神明小学校を継続的に調査し、授業参観と研究協議を行う。 研究成果のまとめについては、全国社会科教育学会(山梨大学、10月)と日本社会科教育学会(奈良教育大学、11月)で行う。平成30年度末には、本研究の成果と課題を明らかにするために、研究成果報告会を、山形大学で開催する。コメンテーターとして、上條晴夫東北福祉大学教授と、猪瀬武則日本体育大学教授を招請する。研究成果は冊子体の報告集にまとめ、免許更新講習のテキストとして使用できるように準備し、継続的に検証をすすめられる体制を本研究で整える。
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Causes of Carryover |
(理由) 平成29年度は、ディベートのジャッジに焦点をあてた「説得」の対話スキルの単元開発にもとづいて学会誌の投稿論文の作成に重点をおいた。そのため、生徒の書いたジャッジのフローシートやふり返りのワークシートの収集と記述の質的分析が中心となった。その結果、教室内の全グループの音声対話データの収集の必要がなく、そのデータ収集のための小型ビデオカメラの未整備分が、物品費において未使用額となっている。 (使用計画) 平成30年度は、生徒一人ひとりの「探究」の対話スキルの活用に重点をおいた単元開発となるため、生徒の学習データの蓄積と相互作用の対話データの収集が必要となる。小型ビデオカメラを整備し、探究のプロセスを丁寧に記録におさめ、分析対象とする。
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