2016 Fiscal Year Research-status Report
美術鑑賞プロセスでの思考の柔軟性と深化を促す学習方略の研究
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16K04661
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Research Institution | University of Tsukuba |
Principal Investigator |
石崎 和宏 筑波大学, 芸術系, 教授 (80250869)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | 美術教育 / 美術鑑賞 / 学習方略 |
Outline of Annual Research Achievements |
本年度は研究の第一段階として、美術鑑賞プロセスにおける思考の柔軟性と深化に関する理論的検討を行い、同時に美的判断ジレンマを活用した思考支援ツールのプロトタイプ開発を進めた。 まず、美術鑑賞プロセスにおける思考の仮説モデルを構築するために、思考の柔軟性と深化にかかわる指標を検討した。特に思考の柔軟性と深化に関連する認知過程モデルの先行研究を渉猟し、思考の発達的変化、批判的思考での深化、創造的思考での柔軟性、問題解決の視点からレビューし、美術鑑賞プロセスでの思考の柔軟性・深化に関わる指標の抽出を進めた。また、認知的柔軟性の知見の美術鑑賞プロセスでの援用を試み、仮説モデルのフレームについて、美術鑑賞プロセスでの美術鑑賞スキルとの対応、発達や熟達、転移、学習者の思考の質の深まりの関係から検討した。 次に、学習者が葛藤に向き合う美的判断ジレンマの教材として、美術やデザインにかかわる出来事や事件から美的・歴史的・経済的価値などの判断を考えるプロセスを学習に取り入れる思考深化ツールのプロトタイプを具体化した。基本的に討論中心の授業で利用するシナリオを中心として検討し、特に討論を支援するシナリオと美術関連資料、ロールプレイゲームについて開発を進めた。 なお、研究成果については著書『アートエデュケーション思考』(学術研究出版)、華東師範大学(中国・上海市)での学術フォーラム「“守正創新”美術教育創新学術論壇」での招待講演、熊本大学(熊本市)での「美術教育シンポジウム」の基調講演で発表した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本年度の研究目的は、美術鑑賞プロセスにおける思考の柔軟性と深化に関する理論的検討を行うとともに美的判断ジレンマを活用した思考支援ツールのプロトタイプ開発を進めることであり、それらを計画的に遂行することができた。また、著書や海外の学術会議と国内のシンポジウムの招待講演で研究成果を発表することができ、研究成果の発表も順調に進展している。
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Strategy for Future Research Activity |
研究の第二段階として、美術鑑賞における自己省察支援ツールを開発し、美術鑑賞プロセスにおける思考の深化を支援する学習方略としての予備的検証を進める。まず、美術鑑賞での思考の深まりを自己省察によって促す方略に着目し、自己省察を促す問いを含めたファシリテート・キャプションを美術作品ごとに作成する。さらに、開発したキャプション・ツールを活用したグループワークによる美術鑑賞プログラムを具体化する。それらをふまえて美術鑑賞での思考支援プログラムの一部をパイロット・スタディとして大学生を対象として行い、その効果と課題を事例分析する。なお、これまでの研究成果の一部については国際美術教育学会(InSEA)世界会議(韓国・大邱市)で発表する計画である。
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Causes of Carryover |
平成28年度に繰越額が生じたのは、成果発表のために当初計上していた海外渡航旅費において招待講演となったことによりその旅費の支出がなくなったためと、英文校閲の費用において修正箇所が少なかったことにより経費が少なくなったためである。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
平成29年度においても国際会議において成果発表を行うために海外出張を予定しており、その海外出張経費と英文校閲費用の補充に使用する計画である。
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