2018 Fiscal Year Research-status Report
美術鑑賞プロセスでの思考の柔軟性と深化を促す学習方略の研究
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16K04661
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Research Institution | University of Tsukuba |
Principal Investigator |
石崎 和宏 筑波大学, 芸術系, 教授 (80250869)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2020-03-31
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Keywords | 美術教育 / 美術鑑賞 / 学習方略 |
Outline of Annual Research Achievements |
本年度は前年度までの研究をふまえ、美術鑑賞での思考の深化を支援する学習方略の実践的検証を進めるとともに、国際学会での口頭発表や国内外の学術誌での研究成果の公開を行った。 具体的には、すでに大学生を対象として実践した丑久保健一氏の彫刻作品《1・0・∞のボール》(1987年・欅)の美術鑑賞の事例分析と考察を進めた。特に作品鑑賞でのふり返りをグループワークによって促し、そこで共有されたメッセージや解釈をショートビデオとして映像表現するように促すプロセスにおいて、学習者がどのような気づきや認識をしていたのか、そして作品や鑑賞に対する概念変化がどのように起きていたのかに注目して分析した。分析では、質的データ解析ソフトNVivo12を使用してワークシートやエッセイのテキストデータのコーディングを行った。その結果、5つのカテゴリーと14のサブカテゴリーを抽出するとともに鑑賞における思考深化の仮説モデルを生成した。つまり、鑑賞者は、作品を手で触りながらその触覚からの感動を強め、作品への問いや気づき、作者への共感を高めて「作品との対話」が促され、そして、グループワークでの協働的な活動のふり返りによって「多様な見方の共有」を行っていた。また、作品への自己同一化や作品のメタファーの解釈を示している場合、作品理解における概念変化が促され、鑑賞者はさらに思考を深めて「視覚メタファーとしての意味生成」を行うと推察され、鑑賞行為そのものをメタ認知することや、今回の鑑賞経験を今後どのようにフィードバックするかを考えること、そして鑑賞を心の癒しとして受容することなどとのかかわりが示唆された。なお、本研究の成果の一部については、国際美術教育学会(InSEA)欧州地域会議(フィンランド・ヘルシンキ)において発表した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本年度の研究では、美術鑑賞での思考深化を促すための学習方略を取り入れた実践から収集した質的データの解析を進めて、鑑賞での思考深化にかかわる仮説モデルを考察し、その成果発表を計画的に遂行することができた。具体的には、五感を通した美術作品の鑑賞体験によって作品との対話を促し、協働的なグループワークによる省察や解釈の共有、そしてその映像表現活動が、美術鑑賞プロセスにおける思考の深化を促す学習方略として有効であることが示唆された。また、海外の学術会議と国際学会誌、および国内学会の叢書においてこれまでの成果を含めて発表することができ、研究成果の発表もおおむね順調に進展している。
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Strategy for Future Research Activity |
本年度の後半の研究において考察を進めた成果を海外で発表するために2018年10月に申請した発表プロポーザルが、審査を経て同年12月に受諾され、2019年7月開催の国際美術教育学会(International Society for Education through Art:InSEA)において発表することになった。そのため補助事業期間延長の申請を行い、2019年度までの延長が承認された。それによって2019年度は、上記国際学会において研究発表する内容の精選と充実を図り、海外での情報発信や国際的な意見交換と交流の推進に努める。
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Causes of Carryover |
次年度への使用額が生じたのは、国外での学会発表に係る旅費ならびに英語論文作成に係る経費が当初見込み額より安価で済んだためである。 次年度においては、本研究課題に基づく成果発表を2019年7月にカナダ(バンクーバー市)で開催予定の国際美術教育学会(International Society for Education through Art:InSEA)世界会議で行うため、その旅費と発表英文原稿校閲費として使用する計画である。
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