2016 Fiscal Year Research-status Report
アクティブ・ラーニングによる思考力育成のための道徳カリキュラムの研究
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16K04747
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Research Institution | Tokyo Gakugei University |
Principal Investigator |
浅沼 茂 東京学芸大学, 教育学部, 研究員 (30184146)
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Project Period (FY) |
2016-01-27 – 2020-03-31
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Keywords | 論理的思考力 / 価値葛藤 / 相互理解 / 道徳教育 / アクティブ・ラーニング / 合意形成 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究のテーマは、「アクティブ・ラーニングによる思考力育成のための道徳カリキュラムの研究」である。この研究は、ここ数年、政府より打ち出されている道徳教育の教科化と相まって、その内容と方法をめぐって議論が錯綜している。このような錯綜する議論のを整理するための基礎となるような実証的研究である。文科省は、アクティブ・ラーニングは、次世代のカリキュラム・方法として提唱している。他方、道徳教育は特定の価値観を注入するのではなく、思考力を育てるものであると言っている。そのために、アクティブ・ラーニングを積極的に取り入れた道徳教育カリキュラムについて明確に定義し、優れた実践事例を国の内外において研究し、多様なカリキュラム案を検討し、思考力を育てるカリキュラム案作りに役立てようとした。 他方、日本では現在教育実効会議が道徳の教科化を進める方針を立てている。そして、論理的な思考力を高めるための道徳教育ということを提唱している。このような課題にまさに応えるような理論とモデルとなる実践的方法について研究するのが本研究である。本研究は、一つは、外国において先行するカリキュラムについて調査・分析した。特に、論理的思考力を育む上で、大きな成果を上げている、米国のアラン・ロックウッドの歴史と道徳を結びつけたカリキュラムの特長と実際の成果について調査した。 第2に、このようなモデルにおいては、コールバーグのように主観的な発達段階モデルをもって一元的に尺度化を計るのではなく、相互の立場の背景理解とその発話行為という主観性と社会文脈的理解の総合という、複雑な過程が描かれている。この理論は、難解であるが、実際の生活世界の場面においては「妥当性」要求にあった、現実的な実践モデルとなった。それは、その理論に基づいて実験的に進めた思考力を育てる道徳教育の実践において明確に示すことができた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
平成28年度は過去の研究の概要を整理した。本研究は、価値や徳目の注入することだけを主眼としてきた、これまで道徳教育の実践に対して、個々人の参加を主体としたアクティブ・ラーニングの方法に基づいた実践モデルを提供することに確信をもって進めている。特にハーバーマスは、コールバーグの道徳発達段階論を再構築し、対話による相互理解と合意形成という実践的方法を提唱している。この方法は、文化的な価値の序列と対立の問題を解決することをめざす。そのために問題解決にいたるための思考のプロセスの構造化という困難な課題に向かうプロセスを明らかにしている。それは、アメリカの道徳的発達段階論とドイツの批判的思想という2つの理論的な基礎を背景に構築された道徳教育論の実践可能性を示唆している。 この道徳教育論は、今日のアクティブ・ラーニングと道徳教育の課題に十分応えるものである。しかし、その理論的な構造が難解なため、その実践の可能性について十分検討する必要性があった。本研究は、このような課題に答えるために、文献を検討しその妥当性を吟味した。第一にロックウッドの教科書は、価値対立に基づく道徳的な議論を具体的にはっきり見て取れるように編纂している。その教科書は、植民地時代から現代までの史実を価値的な枠組みをもって判断することを生徒に迫っている。通常、価値的な内容を歴史に持ち込むなというのが歴史学の多くの授業である。しかし、あえて、それを道徳と結びつけることによって歴史的な事実をどのような判断するかということを問うという構造になっている。それをストーリー仕立てのエピソードをもって、登場人物に感情移入させる場面を作ることによって可能にするものである。このような実践を試みた文献と実践的データを整理した。
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Strategy for Future Research Activity |
次年度は、アクティブ・ラーニングによる道徳的価値の葛藤に関わるより具体的な実践事例と子どもの発達の実態を調査する。そして子どもの論理的思考力と道徳的価値の発達の具体的な道筋を明らかにする。また、社会的公正の概念と価値葛藤に関わる実践に着目し、アクティブ・ラーニングがいかに実践されているかを探る。道徳教育は、グローバル化した社会において相互の理解と合意がいかに形成されるかと明らかにするものである。そこでは現実的な社会問題が思考力形成の重要な媒介となることを明らかにする。そして、さらに多くのデータを収集し、分析を試み、優れたモデルを提示することをめざす。 さらに予想される結果に向けて、実際の教室現場で授業を実践し、観察する。その結果を児童・生徒のワークシートと作文の記録を収集し、分析を試みる。これまでのいくつかの試行結果を検討した結果、相互理解と合意形成を目指した実践モデルは、目指していた目標にかなり近づいていた。それは、附属の小・中・高等学校のみならず、一般的な公立学校での実践においても見られるものと考える。 その意義については、2つの点が考えられる。一つは、これまでの道徳教育が徳目注入型であった伝統的な方法を改善するものである。生徒一人一人が主体的に学習に参加することによって、自らの主体性をもって思考するというものである。もう一つは、思考力を育てる考える道徳実践によって、価値葛藤場面において生徒人一人が自らの立場と考えを対象化し、気づくものと期待されるものである。この実践的なモデルによって、相互理解と合意形成の道徳教育によるアクティブ・ラーニングの実践可能性を示すことができ、生徒が実際に成長するということを実証しうるものと期待される。
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Causes of Carryover |
本務と重なり、実際に実践の調査に行く時間が十分にとれなかったため、旅費に残額が生じた。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
次年度においては、より多くの教育実践のデータを収集するための旅費にあてる。
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