2016 Fiscal Year Research-status Report
自律性を育成する道徳教育―「議論する道徳科」と社会統合の視点
Project/Area Number |
16K04787
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Research Institution | Baika Women's University |
Principal Investigator |
佃 繁 梅花女子大学, 公私立大学の部局等, 教授 (90513721)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | 道徳教育 / 考え、議論する道徳授業 / 自律性 / 社会統合 |
Outline of Annual Research Achievements |
約50名の協力研究員(教員)による月1 回の定例研究会を実施し、「自律的な学習者」を育成する実践的指導力について、理論と指導技術の研修をおこなった。道徳教育に限定した研究会でないことが、かえって学校の教育活動全体でおこなうとされる道徳教育の条件に適うと考えている。「自律的な学習者(autonomous learner)」という語について、本研究では政治哲学および経済学をふくむ幅広い観点からの概念規定を前提としている。定例研究会では政治・経済領域にかかわる社会状況を説明し、学校教育を歴史状況に位置づけ、学校という枠組みを超えた観点から「自律性」を育成する教育活動について議論することをめざした。 並行して、小学校3校、中学校3校の教員研修を通して「自律性」の発達プロセス、教科における自律性を育成する教育方法、「議論する道徳」のためのコミュニケーション能力、実際の道徳授業を通した議論の方法などについて、参与観察による準備的な研究を実施した。小学校3校(A小、B小、C小とする)については、A小、B小の2校が恵まれた家庭の多い校区、C小が困難な状況の家庭の割合が多い校区である。A小、B小ともに低・中・高学年で1回ずつ算数の研究授業を実施した。C小では1年生を担任している新任教諭の教育実践に1年間通して授業参観および指導助言をおこない、本研究のテーマに即して成果の検証をおこなった。中学校3校(D中、E中、F中とする)については、D中、E中の2校が恵まれた家庭の多い校区、F中が他の2校と比較して困難な状況の家庭の割合が多い校区である。各校における研究授業の実施回数は、D中が理科と数学で2回、E中が社会と総合的な学習の時間で2回、F中が国語と道徳の2回であった。校区性や教科の特徴を超えて、小集団における議論を通した学びの成立という観点から事前、事後の指導助言をおこなった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
研究は概ね順調に計画どおりに進んでいる。研究開始初年度の平成28年度は大きく2つの研究を計画していた。一つは、協力研究者(小・中・高等学校教員)によるアクション・リサーチ実施に向けたスキルの研修、他の一つは、「自律的学習者の育成」と「考え、議論する道徳授業」に関するフィールド・ワークを通したデータ収集である。 前者については、毎月1回の定例研究会を通して、思考技術ツールに関する理論研修(マインド・マップ、タイム・マネジメント等)とワークショップ、授業力についての理論研修(授業のバックワード・デザイン等)とワークショップ等を実施した。協力研究者は初年度から自分の教育活動にこれらのスキルを活用して研究の試行段階に入っている。 後者については、計画立案時よりも多くの研究協力校を確保でき、発達年齢の異なる児童生徒を対象にできるようになるとともに、複数教科で道徳性の発達と指導についての研究が可能となった。予測されたことではあるが、校区の違いによる環境要因が道徳性の指導に大きく影響することが、具体的事例とともに明らかになってきている。 以上の実践研究を支える理論研究として、日本社会の分析に関する文献およびコミュニケーションに関する哲学や社会学の文献について整理した。現在の日本社会の経済的側面が大人と子どもの道徳性に与える影響を知ることは学校教育の方向性を定める上で非常に重要である。同時に、コミュニケーションの原理的論考であるデイヴィドソンの三角測量概念を研究し、社会の変化に左右されない倫理的能力を育成する道徳授業の可能性についても探り始めているところである。
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Strategy for Future Research Activity |
2年目研究を推進するにあたり、研究対象をC小学校の3年生児童を中心に据えて参与観察を継続的に実施することを開始した。C小学校は教員、校長(以下P教員、Q校長とする)ともに本研究への協力に非常に積極的であり、授業参観や教員との面談について機会が多くとれる条件にある。昨年度、P教員は新任教員として1年生を担当し、全ての授業において低学年では道徳性の育成に結び付く教育活動であることが明らかになっている。今年度の担当学年は3年生であり、低学年での道徳性育成の違いと指導技術等の課題について、自律的学習者の育成という観点から研究を実施したい。Q校長は教育目標の見直しという観点から学校経営を行っており、それはP教員の授業を通した道徳性に関する教育活動に影響を与えている。P教員を中心とした研究であった昨年度から、今年度はQ校長の学校経営への指導助言を通して、ミクロ(授業)とマクロ(学校経営)をつなぐ領域において2年目研究を実施することを構想している。 大学研究者と小・中学校教員との共同研究が成功するには、その研究内容が教員の日常の活動における切実な問題と関連していることが重要である。本研究が、大学研究者から現場教員に「研究テーマをおろす」という方法を採らない理由がここにある。実践研究の主体は協力者としての小・中学校教員(管理職を含む)である。教員を共同研究者としての努力へと向かわせるものは何かと考えるとき、教員が解決を願う現実的な教育課題にとって、本研究が役立つに違いないという理解と納得が不可欠である。あえて本研究のねらいを前面に出さず、教員が抱えている課題に即した形で本研究のテーマに結び付く指導助言を実施し、その成果を探究していくという方法で今年度の研究を実施していきたい。
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