2018 Fiscal Year Research-status Report
非行化した被虐待少年の神経学的リカバリーメカニズムの解明
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16K04841
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Research Institution | Mie University |
Principal Investigator |
松浦 直己 三重大学, 教育学部, 教授 (20452518)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2020-03-31
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Keywords | 少年非行 / 被虐待 / 発達障害 / 矯正教育効果 / MRI |
Outline of Annual Research Achievements |
研究協力施設の1年間の入所者は約30名であり、順調に入園時と退園時のデータを集積している。MRI撮影施設との協力関係も良好であり、診察医および撮影技 師も対象児童の特性をよく理解した上で、検査に当たってもらっている。2018年度には、全国児童自立支援施設研究大会で基調講演を行い、研究の趣旨や目的、方法等について概説した上で、研究結果の一部を報告した。研究協力施設で得られたデータの部分的な解析であるが、入園時と比較して退園時にはIQが平均して20程度上昇した。またCBCLにおける行動と情緒の評価でも、顕著な改善が認められている。今後はMRI画像データとこれらの認知的・行動的・心理的完全との関連を精査していく。これまでの中間解析によると退園時のIQは、入園時と比較して、約20以上も上昇していた。またCBCL(子どもの行動チェックリスト)による評価においても、顕著な改善が認められた。さらに、退園した児童(実際には中学卒業と同時に退園することが多い)らの予後は概ね良好であり、再犯率も低レベルに落ち着いている。このような周辺的状況からも、児童自立支援施設の矯正教育効果は極めて高いことが推察される。 これまでには、特に夫婦小舎制度における矯正教育効果は実証的に検討されることがほとんどなかったが、少年らの心理、認知、行動、神経学的評価を組み合 わせて矯正教育効果を検討することは画期的であると思われる。一層のデータ蓄積が望まれる。 2018年度はやや入所者が少なかったが、丁寧にデータはとり続けており、年に1,2回程度、施設側との研修を通して、研究結果のフィードバックを行っている。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
MRIを実施する病院およびスタッフとの連携により、順調にデータが蓄積されている。その解析はこれからであり、脳の体積的変化と他の行動指標との関連を分析していくこととなる。
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Strategy for Future Research Activity |
最近の30年間、少年非行は急激に減少傾向を示しており、約80%も低下している。30年前でも国際的に見れば非行率は極めて小さかったことを踏まえると、これは驚くべき象である。この要因として、家庭教育や学校教育の質の高さは当然として、ハイリスクな子ども達を教育する、矯正教育機関が果たしてきた役割に目を向ける必要がある。しかしながら、矯正教育の効果評価研究は、これまでに体系的なエビデンスを蓄積してきたとは言えない。入所時と退所時の行動、心理、情緒、学力の変化など、包括的な矯正教育の効果評価研究はこれまでに十分実施されてこなかった。 今回本研究では、入所時と退所時の行動、心理、情緒、学力の変化などに加えて、生物学的な変化、すなわちMRI撮影を通じて脳の物理的な変容を評価している。今後、行動等の変化と脳の物理的変容の関連について、精査していく必要がある。特に本研究対象施設の入所者は、ほぼ全員が広い意味での被虐待児であり、入所して安定的な人間関係を構築しつつ、実質的にトラウマの治療も行っているといってよい。夫婦小舎制の施設での矯正教育の効果評価研究は極めてインパクトがあり、世界的にも貴重である。今後更に本研究を発展させ、少年院でも同様な研究が可能か、探っていく必要がある。
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Causes of Carryover |
MRI検査の対象者が予定より少なかったことにより、検査費使用額が未執行になった。 (使用計画):2019年度に行うMRI検査(撮影)に使用する予定である。
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Research Products
(6 results)