2016 Fiscal Year Research-status Report
自閉症スペクトラムの特徴に対する当事者と周囲の理解―その質を高める実践研究―
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16K04858
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Research Institution | Numazu National College of Technology |
Principal Investigator |
黒田 一寿 沼津工業高等専門学校, 教養科, 准教授 (60331998)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | 自閉症スペクトラム / 当事者研究 / 多様性学習 / ビデオエスノグラフィー / 社会モデル |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は,自閉症スペクトラム(以下ASと表記)障害の中心的な診断基準である「社会的コミュニケーションおよび相互交流の持続的な質的障害」の傾向をもった青年の学校生活を,診断・カミングアウトの有無にかかわらず支援し,「当事者の自助」と「周囲の理解」の質を高めることを目的としている。そのために(1)AS傾向のある学生のコミュニケーション特性と,そうした特性に対する周囲の者の態度についての双方向からの解明(2)人間関係における不全感や疎外感の体験を共有する当事者研究グループ活動の実践(3)コミュニケーションや「居方」や偏見をテーマとした多様性学習プログラムの開発,といった課題に取り組む。 平成28年度は,本研究におけるグループ活動や学習プログラムを研究フィールドである高等専門学校(以下「高専」と表記)で導入・実践していくために,高専教育における障害学生支援の基礎づけについて検討することから始めた(口頭発表:高専教育と障害者差別解消法,日本高専学会,2016)。また,当事者研究のスタイルを検討するために,様々な分野におけるディスカッションや語り合い,グループ活動の実践を視察・取材した(アスペの会,哲学カフェ,自習グループ,ランチミーティング,WRAPなど)。多様性学習プログラムの開発に向けては,「偏見」に関する国内外の文献研究を行い,学生がもつ偏見の構造を検討するための質問紙の準備を行った。またビデオエスノグラフィーの導入に向けて,機材の選定・購入と撮影・編集システムの構築を行った。 平成29年度は,グループ活動のスタートアップさせる。この活動の記録をもとに,ビデオエスノグラフィーに取り組む。また,偏見に関する質問紙調査を実施し,収集したデータをもとに探索的因子分析等を行う予定である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
研究代表者の人事交流による1年間の転勤により,予定外に調査フィールドから離れることになり,平成28年度に予定していたグループ活動の立ち上げを平成29年度に延期することを余儀なくされた。よって,AS傾向のある学生のコミュニケーション特性とそうした特性に対する周囲の者の態度について参与観察やビデオエスノグラフィーを用いてアプローチする試みは,平成29年度から実施することとなった。 ただしそのかわりに,平成29年度に予定していた偏見に関する質問紙調査について,計画を前倒しして平成28年度から文献研究と質問紙準備を始めた。また本研究は実践研究的側面を有しているが,その成果を教育現場にフィードバックする段階を見据え,今年度に高専教育における障害学生支援の位置づけに関する論考をまとめられたことは,研究計画にはなかった成果であった(日本高専学会誌,2017,査読有)。 全体としては,グループ活動の立ち上げを延期した影響を考えると,進捗状況はやや遅れていると評価する。
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Strategy for Future Research Activity |
当初の研究計画に照らし,研究パートの実施時期の変更はあるが,内容としては計画通りの遂行を目指している。実施時期の変更とは,グループ活動の立ち上げおよび実践,またその活動の記録および分析のパートを平成28年度から平成29年度に変更した点である。 また,多様性学習プログラムの開発について予備的リサーチを進めた結果,英国で発展してきた「障害平等研修」が参考になると考えており,これを本研究における学習プログラムに応用できないかリサーチを進めたいと計画している。
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Causes of Carryover |
研究計画の変更(順序)により,平成28年度に計上していたグループ活動のファシリテーターの人件費分を平成29年度に繰り越した。また,グループ活動の実施時期の変更により,その分析の(ビデオ編集,データセッション)に伴う人件費,旅費についても次年度に繰り越すこととなった。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
使用時期は当初の研究計画より変更となったが,内容としては変更なく,グループ活動およびビデオエスノグラフィーに必要な人件費,旅費として使用する予定である。
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