2016 Fiscal Year Research-status Report
準周期構造を利用したトポロジカルスピン波デバイスの開発
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16K04881
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Research Institution | Fukuoka University |
Principal Investigator |
中山 和之 福岡大学, 理学部, 助教 (80602721)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
冨田 知志 奈良先端科学技術大学院大学, 物質創成科学研究科, 助教 (90360594)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | メタマテリアル / スピントロニクス / スピン波 / 準周期 / トポロジー |
Outline of Annual Research Achievements |
近年、スピン流を利用した情報処理機能デバイスの開発や超省電力情報伝送技術の開発が活発である。特に集団的な磁気モーメントの励起波であるマグノンを利用したスピン波スピン流は、電子の流れを伴わず発熱を抑えることができるため、超省エネ技術の基盤研究として注目を集めている。我々は低コストかつロバストなスピン波デバイスの開発を行うため、擾乱に強いスピン波伝搬を可能とするマグノニック結晶の構造解析とスピン波研究で重要な強磁性薄膜を簡便に作製する技術の確立に関する研究計画を立てた。 スピン波の長距離伝播には、損失の少ない強磁性膜の作製が必要であり強磁性薄膜としてはイットリウム鉄ガーネット (YttriumIron Garnet: YIG) が有力である。YIG薄膜の作製は、通常GGG結晶基板上でエピタキシャル成長を用いて行われる。しかしながらGGG結晶基板は高価なため、デバイス開発の観点からコストが課題となってしまう。そこで我々は金属有機化合物分解法 (MOD 法) による簡便な強磁性薄膜を作製法について研究をすすめた。また近年の微細加工技術の発展により、強磁性体にナノ構造体を作りこむことでスピン波の伝播制御を行う研究が盛んだが、ナノ構造体の作製精度がデバイスを生産する上でボトルネックとなっている。そこで我々はスピン波制御デバイスのひとつであるマグノニック結晶に準周期構造を導入することで、トポロジカルな性質を持つスピン波モードを発現させる研究をすすめた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
平成28年度は1. 簡便な強磁性膜の作製法の確立、2. 準周期構造を持つマグノニック結晶のモード解析を研究目標に据えた。 有機金属化合物を有機溶媒に溶かした液体を、スピンコート法で石英基板上に均一に塗布し、焼成温度を調整することで均一な強磁性膜の作製を試みた。1000度程度の高温で焼成した強磁性膜をX線回折法を用いて構造解析したところ、YIGの構造がサンプル中に生成されていることが分かった。また振動試料型磁力計を用いて静的な磁化を測定したところ、強磁性を示すヒステリシス信号が確認できた。しかしながらスピン波にとって重要なダンピング定数を推定するため、電子スピン共鳴測定を行ったところ通常の絶縁体型の強磁性体に比べ線幅の広いスペクトルが観測された。またYIG薄膜サンプル上に金コプラナーウェーブガイドを設置し、ベクトルネットワークアナライザを用いてスピン波の計測を試みたところ、スピン波は検出されなかった。これはMOD法で作製された強磁性薄膜は局所的に磁性体として振舞っているが、サンプル全体で見ると断片化された多結晶構造を持つと考えられる。現状ではスピン波のようにサンプルの均一性の要求が高い応用に対して検討の余地があることが判明した。 スピン波におけるトポロジカルなエッジ状態を発現する構造を設計するため、準周期的に結合した多重導波路をタイトバインディングモデルで解析を行った。計算ではトンネルレートをbinary型に変形したHarperモデルを用いた。解析結果からエッジ状態を持つ多重導波路結晶における準周期配列を見出した。
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Strategy for Future Research Activity |
MOD法による作製された強磁性薄膜の性質を検討した結果、現状ではスピン波実験で用いることは困難と判断し、異なるサンプル作製法にも着手する計画となった。具体的にはスパッタ法による強磁性薄膜の成膜をすすめる。研究分担者の冨田は、スパッタ法を用いたYIG薄膜の磁気光学効果の研究実績がある。YIGのスパッタ膜に関する他グループの先行研究を参考にすると800度程度の焼成温度で、均一な強磁性膜の作製が期待できる。 現在マグノニック結晶の格子定数は10μmを想定しており、この領域では磁気双極子相互作用が支配的である。有限差分法によりLLG方程式を数値的に解析したところ、スピン波モードは複雑なスペクトルを持つことが分かった。そのためバンド構造中の任意のモードを励起する実験手法が重要となる。そこでアダム・ミツキェヴィチ大学のGruszeckiらによって開発された、実空間・波数空間で局在性の高いマイクロ波の発生が可能なアンテナ構造を採用し、スピン波計測系の改善をすすめる。また現在スピン波モードとして、非相反性を持つ表面静磁波を採用しているが、これはマグノニック結晶のバンド構造を複雑にする要因ともなっている。これを軽減するため、非相反性を持たない前進体積波も検討する。そのためスピン波計測系への面直磁場の導入、YIGにガリウムをドープすることで飽和磁化を軽減するなどの方策を連携研究者の眞砂とすすめる。 本研究計画にはスピン波のイメージングを課題に上げている。このため平成29年度は磁気光学測定のための準備もすすめる。そのため年度はじめに光学実験用の光学定盤を本科研費で導入する。
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Causes of Carryover |
平成29年度以降の研究計画ではスピン波の磁気光学的イメージングを課題に上げている。そのため光学実験用の定盤の導入を研究予算に含めた。一般に光学定盤は納期がかかるため、当初の計画では前年度にあたる平成28年度に定盤を購入する計画を立てていた。しかしながら大学の研究施設の都合上、光学定盤を搬入する実験室を確定する時期が年度末近くとなった。製品の納入可能時期を見積もったところ、年内の予算執行手続きの期限ぎりぎりとなったため、製品の納入・精算を次年度に行うこととした。結果、次年度仕様額が大きく発生した。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
上記の理由のため研究予算の使用計画は当初と大きな変更は無い。また極力研究計画の遅れにつながらないように、業者と相談の上、製品の手配準備を可能な限りすすめている。
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