2017 Fiscal Year Research-status Report
巨大磁気熱量効果を示す一次相転移磁性体の熱伝導度研究
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16K04932
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Research Institution | Kyushu University |
Principal Investigator |
和田 裕文 九州大学, 理学研究院, 教授 (80191831)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | 巨大磁気熱量効果 / 熱伝導度 / 一次相転移 |
Outline of Annual Research Achievements |
磁性体に一定温度で磁場を加えるとエントロピーは減少する.また断熱状態で磁場を取り除くと温度が下がる.これらの性質を磁気熱量効果という.磁気冷凍は磁気熱量効果を用いた冷凍法であり,環境にやさしく省エネルギーが図れることから近年大いに注目が集まっている.強磁性から常磁性へ一次相転移する物質ではエントロピー変化が大きく,これが巨大磁気熱量効果を発現するので磁気冷凍材料として期待されており,世界的にも精力的に研究されている.しかし磁気熱量効果が大きいだけでは磁気冷凍材料として適当でない.たとえば材料の熱伝導度が大きくないと速い周波数での熱サイクルが行えず冷凍能力は向上しない.しかしながら巨大磁気熱量効果材料に対して熱伝導度をはじめとする伝導現象の報告はほとんど行われていない. 本研究では巨大磁気熱量効果を示す物質の本質的な熱伝導度を測定し,強磁性と常磁性の違いを明らかにし,熱伝導度の高い材料の開発の指針を見出すことを目的としている.本年度は昨年度から開始した定常熱流法による熱伝導測定装置を完成し,標準資料の測定により,装置の性能を確認した.また巨大磁気熱量効果を示すMn1.03As0.7Sb0.3化合物と比較参照物質として巨大磁気熱量効果を示さない反強磁性のMn1.06Fe0.60Ru0.04P0.45Si0.55の熱伝導度と電気抵抗の測定を行い,熱伝導に対する電子系と格子系の寄与について議論した.また併せて一次相転移物質について熱伝導度とともにフェルミ面の情報を与えるホール効果の測定を行い,強磁性と常磁性において正常ホール効果と異常ホール効果の分離を試みた.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
平成29年度は昨年度から製作を行っていた熱伝導度測定装置を完成した.測定原理は定常熱流法で,当初は液体窒素温度から室温までの測定を目標としていたが,最終的には液体ヘリウム温度から室温までの温度範囲をカバーする装置となった.さらには室温から200K程度までは昇温過程だけでなく,降温過程も測定できるようにした. この温度範囲で標準資料のTiやGdの測定を行い,文献値とよい一致を得手装置の性能を確認した.また,同じ装置で電気抵抗の温度変化も測定できるように測定系に改良を加えた. この装置を用いて本年度は 巨大磁気熱量効果を示すMn1.03As0.7Sb0.3と巨大磁気熱量効果を示さない反強磁性のMn1.06Fe0.60Ru0.04P0.45Si0.55の熱伝導度および電気伝導度の測定を行った. Mn1.03As0.7Sb0.3はキュリー温度250 Kで一次転移を示す強磁性体である.熱伝導度は室温で3 W/mK程度で,温度が下がるにつれて小さくなる.キュリー温度で勾配が変わり,常磁性のほうが温度勾配が大きい.一方電気抵抗は室温で1200μΩcmと非常に大きく,キュリー温度で大きく減少する.ヴィーデマン・フランツ則を用いて電子系の熱伝導度の寄与を評価すると,室温ではほぼ半分が電子系による熱伝導度であることがわかった. 反強磁性のMn1.06Fe0.60Ru0.04P0.45Si0.55の熱伝導度は室温で5 W/mKで,温度とともに減少し,低温では温度勾配が大きくなって絶対零度にむかってゼロに近づく.電気抵抗は室温で400μΩcmくらいであり,やはりヴィーデマン・フランツ則を仮定すると電子系の熱伝導度の寄与は全他の半分程度であると見積もられる
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Strategy for Future Research Activity |
今後は巨大磁気熱量効果材料の(MnFeRu)2(PSi)やLa(FeSi)13などのFe系の巨大磁気熱量効果材料についても測定を行っていく.とくにキュリー温度付近でどのようなふるまいをするのかについても明らかにしたいと考えている.巨大磁気熱量効果材料の熱伝導度は磁気冷凍実用化についても大事な知見を与えるので送球に論文として発表したい. 一方,熱伝導度と同じくフェルミ面の情報を与える物性として我々はホール効果にも着目している.とくに磁場によって常磁性から強磁性へと一次転移する物質は,同じ温度でホール効果の磁場変化を測ることにより,フェルミ面の変化を検知できる.緩和時間は同じ温度では磁場変化は小さいと考えてよい.現在単結晶ErCo2や多結晶Lu(CoAl)2のホール効果の磁場依存性を様々な温度で測定しているところであり,常磁性から強磁性に変化するときに正常ホール効果が大きく変わることを見出している.同様の効果は熱伝導度でも期待できるので,一次転移物質の熱伝導度の磁場変化を測定するのも興味深い.来年度にその可能性も検討してみたいと考えている.
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Causes of Carryover |
熱伝導測定装置は2年目に完成し,巨大磁気熱量効果材料の熱伝導度は順調に測定が行われているが,もともと磁気冷凍材料は磁場をかけて熱を発生させるので,熱伝導度も磁場中で測定できることが望ましい.また,巨大磁気熱量効果を示す一次相転移物質は磁場をかけると常磁性から強磁性へ転移するから,熱伝導度の磁場変化を測定すれば,強磁性と常磁性の電子状態の違いをはっきりと観測できる.このような理由からわれわれは熱伝導度を磁場中で測定することを考えている.しかし現在の装置は我々の所有する超伝導マグネットには入らないので,あらたに装置を設計製作する必要がある.そのための装置作製費用と,超伝導マグネットを駆動するための液体ヘリウム料金に使用する計画である.
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Research Products
(4 results)