2016 Fiscal Year Research-status Report
完全非水素系・水素系成長の比較による酸化ガリウム結晶成長へ水素が与える影響の解明
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16K04944
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Research Institution | Tokyo University of Agriculture and Technology |
Principal Investigator |
富樫 理恵 東京農工大学, 工学(系)研究科(研究院), 助教 (50444112)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | 結晶工学 / 結晶成長 / エピタキシャル成長 / HVPE法 / 熱力学解析 / β型酸化ガリウム |
Outline of Annual Research Achievements |
単斜晶系β-ガリア構造を有するβ型酸化ガリウム(β-Ga2O3:バンドギャップ値 4.5~4.9 eV)は、低コスト・高耐圧・低損失パワーデバイス材料として有望である。申請者らは近年、キャリアガスとして高純度窒素(N2)ガスを用い、高純度金属ガリウム(Ga)と塩素(Cl2)ガスの反応で一塩化ガリウム(GaCl)分子を選択的に生成し、別途輸送した酸素(O2)ガスと反応させ、高速・高純度β-Ga2O3結晶の完全非水素系ハライド気相成長(HVPE)を実現している。しかし、本分野では気相成長において成長および成長層の電気物性に大きな影響を及ぼすと考えられる水素の存在については世界的に検証されていない。水素が格子間に取り込まれると、孤立水素自身が電子を放出し、電気電導性の起源になり得るとされている。一方、水素により表面マイグレーションが促進され、結晶性、表面平坦性の向上が期待される。本研究では、Ⅵ族源かつ水素源として水を用いることで意図的に水素導入する水素系ハライドGa2O3成長を実現する。成長層の構造、電気物性等の評価を行い、完全非水素系成長との比較により水素による成長及び物性への影響、メカニズム解明を行い、デバイス応用につなげる。 平成28年度は、水素系Ga2O3成長を実施するに先立ち、完全非水素系・水素系におけるβ-Ga2O3基板及び他のIII族酸化物結晶の熱的安定性について、高温常圧加熱炉装置を用いた実験及び熱力学解析により検討し、水素系では非水素系と比較して大幅に低温よりエッチングが進行すること等を明らかにした。さらに、金属GaとCl2ガスとの反応によるGaClガスの選択生成、およびGaClガスとH2Oガスとの反応による水素導入Ga2O3成長について、原料の選択的生成、成長反応条件の探索等の詳細な熱力学解析を実施し、水素系においても成長可能であることを理論的に明らかにした。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
平成28年度は、水素系β-Ga2O3成長を実施するに先立ち、完全非水素系(窒素ガス中)、水素系(水素ガス中)におけるβ-Ga2O3基板の熱的安定性、水素と基板表面間の反応について、高温常圧加熱炉装置を用いた実験及び熱力学解析により詳細に検討した。さらに、他のIII族酸化物結晶の熱的安定性へも展開し、統一的な知見を得た。具体的には、窒素と比較して水素中では低温よりエッチングが進行すること(β-Ga2O3は窒素中1150℃以上で熱分解するのに対し、水素中では550℃の低温より水素と反応する)、熱的安定性及び水素との化学的安定性はα-Al2O3 > β-Ga2O3 > c-In2O3の順であること等を明らかにし、研究目的達成に向け、重要な知見を得ることができた。研究成果については論文発表を行った。 次に、高純度金属GaとCl2ガスとの反応によるGaClガスの選択生成、およびGaClガスとH2Oガスとの反応による意図的な水素導入Ga2O3成長について、原料の選択的生成、成長反応条件の探索等の詳細な熱力学解析を実施した。熱力学解析の結果、Ga2O3生成の駆動力が最も大きい成長系は、申請者らがこれまでに達成しているGaClガス、O2ガスを用いる完全非水素系成長であることがわかった。一方、III族原料にGaClガス、VI族原料にH2Oガスを用いる水素系Ga2O3生成反応は、上記の完全非水素系成長には劣るものの、原料供給分圧を上げることで高速成長可能であることが明らかとなった。この結果に基づき、水素導入Ga2O3 HVPE成長反応装置の設計を行った。 また、Ga2O3成長で得られた知見を他のIII族酸化物である酸化インジウム結晶の成長に発展させた。一塩化インジウムガス、O2ガスを用いた完全非水素系成長を実現し、Ga2O3成長と比較・検討した。研究成果について国際学会発表及び論文発表を行った。
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Strategy for Future Research Activity |
平成29年度以降は、熱力学解析結果に基づき、GaCl, H2O原料を用いた水素導入Ga2O3 HVPE成長反応装置を構築する。原料ガスとしてCl2,H2Oガスを用い、希釈および輸送用ガスとして窒素ガスを用いる。反応管は2室からなる石英製の一体型反応管で、それぞれのゾーンを電気炉により別々の温度に制御する。H2Oガス原料は新規購入予定の高純度H2Oバブラーを使用しH2Oの蒸気圧を利用して成長炉内へ供給する。Ga2O3の成長に至るまでの反応の流れはおおよそ次の通りである。①原料部に高純度Ga金属を設置し、キャリアガスと共にCl2ガスを供給し、GaCl分子を生成する。②原料部で選択的に生成したGaCl分子を混合部へと輸送し、H2O ガスと混合させる。③初期基板を設置した成長部にて、GaClとH2Oの反応によりGa2O3を初期基板上に成長させる。 次に、構築した装置を用い、成長温度、H2O/GaCl原料供給分圧比等を精密に制御することにより、様々な濃度の水素を意図的に導入したGa2O3成長を実施する。得られた成長層の結晶性、表面モフォロジー等の構造的評価、不純物濃度、原子空孔形成の有無等の点欠陥評価、不純物準位の観測等の光学物性評価を実施するとともに、抵抗率、キャリア濃度等の電気物性へ水素が与える影響を調査する。さらに、ショットキーバリアダイオードを試作することで水素導入による残留電子濃度、デバイス性能への影響を検討する。これまで申請者らのみが実現している完全非水素系Ga2O3成長による結果と比較することで、水素のみのGa2O3成長及び物性への影響を明らかにし、メカニズム解明を目指す。
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Causes of Carryover |
平成28年8月22日より産前産後の休暇、育児休業により研究を中断したため、平成28年度に予定していた新規成長系(完全非水素系HVPE成長装置をベースにした、GaCl, H2O原料を用いた水素導入Ga2O3 HVPE成長反応装置)の構築を次年度以降に実施することとした。そのため、予定より今年度の使用金額が少額となり、次年度使用額が生じた。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
平成29年度以降は、新規成長系を構築するため、水導入の設置(バブラー)、および消耗品としてガス供給制御系の構築に使用するための配管、マスフロコントローラ等が必要となる。また、原料分子種生成制御機構を有するHVPE成長装置を稼働させるため、研究期間を通して、消耗品として石英反応管類、反応管コネクター類、高純度ガリウム金属、高純度原料ガス(塩素,酸素)、原料輸送ガス(窒素,水素)が必要である。その他、全期間を通して、調査・国内外の学会参加、および発表のための旅費、成果の論文投稿関連費用が必要となる。また、作製したGa2O3結晶に含まれる不純物を分析するため、二次イオン質量(SIMS)分析を材料科学技術振興財団へ依頼する予定である。
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[Presentation] Growth of In2O3 by Halide Vapor Phase Epitaxy2016
Author(s)
Shiyu. Numata, Rie Togashi, Ken Goto, Hisashi Murakami, Akito Kuramata, Shigenobu Yamakoshi, and Yoshinao Kumagai
Organizer
The 4th International Conference on Light-Emitting Devices and Their Industrial Applications ’16 (LEDIA ’16)
Place of Presentation
Pacifico Yokohama, Japan
Year and Date
2016-05-19
Int'l Joint Research