2017 Fiscal Year Research-status Report
強磁場を利用した純良大型タンパク結晶の革新的育成方法の開発
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16K04946
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Research Institution | Yokohama National University |
Principal Investigator |
山本 勲 横浜国立大学, 大学院工学研究院, 教授 (40242383)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | 磁場効果 / 結晶成長 / 液-液界面析出法 / タンパク質 / リゾチーム / ソーマチン / グリシン |
Outline of Annual Research Achievements |
強磁場の作用によって純良で巨大なタンパク結晶を得ることを目的とし、鶏卵白リゾチームと植物由来のソーマチンを対象とし、13Tまでの均一水平磁場中で液-液界面析出(LLIP)法によって結晶を育成した。 リゾチームについては昨年度までの実績(10倍のサイズの結晶を得た)をもとに、研究を進めた。結晶サイズの増加に伴う質の低下を抑制するために、質の指標であるモザイシティに深く関連する配向の磁場制御を追求した。具体的には、結晶化剤として8種類の塩化物(Li, Na, K, Ca, Cs, Mn, Co, Ni)を用い、13Tまでの水平磁場中で結晶を育成し、サイズ、配向、構造を評価した。5種の反磁性塩と常磁性塩化マンガンでは両錐形正方晶結晶が得られ、何れもc軸が磁力線と平行に配向した。一方、常磁性塩化コバルトを用いて作製したリゾチームも正方晶結晶であったが、a軸が磁力線と平行に配向した。この結晶のX線構造解析を行い、6配位のCoイオンが結晶の特定部位に取り込まれていることを明らかにした。塩化ニッケルでは斜方晶結晶が得られ、a軸が磁力線と平行に配向した。異なる結晶化剤を用いると配向方向が異なる理由は、晶系やモルフォロジーが異なる結晶が得られることに加え、常磁性金属イオンが取り込まれる位置が異なることで磁気異方性が異なることで説明できる。 ソーマチンについては報告例がなかったので、500以上の条件から結晶化条件を特定し、10Tまでの鉛直磁場中でLLIP法により結晶を育成した。磁場による過重力環境では成長反応時間が抑制されるためさらに小さな結晶が得られ、逆に減重力環境では比較的大きなサイズの結晶を得ることに成功した。 両結晶をあわせて考察すると、水平断面積を最大たらしめる結晶配向を磁場で行い、かつ磁気力による減重力環境を実現することで飛躍的に結晶サイズを巨大化することができると考えられる。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
概ね本年度の実施計画に沿って研究を進め、成果を得た。NIMSとの共同研究により超電導マグネットを長時間使用できる体制を整えた。X線構造解析はこれまでSpring-8で実験を行ってきたが、学内で利用できる装置を確保できたことで時間的な制約がなくなった。リゾチームのみならずソーマチンについても十分な実験環境が整ったことで、タンパク結晶の磁場による純良巨大化のメカニズム解明に迫りつつある。結晶は過飽和液体中で成長するが、適切な過飽和度の位置に保持することで成長速度や成長時間を制御することができる。本研究の結晶育成は、液体と液体の界面で結晶を成長させる方法である。まず、磁場によって液体の相互拡散を抑制することで界面付近にタンパク質の高過飽和層を出現することで結晶核の形成を促す。次に、磁気力を利用した減重力環境によって高過飽和の液-液界面に種結晶を長時間保持することで成長速度を高める。さらに、界面から離れないように界面張力を高めるように結晶の姿勢を制御することで大きなサイズの結晶が得られたと考えている。加えて、微結晶の状態から磁場配向することで高モザイシティ、すなわち高品質の結晶が得られると考えられる。
この磁場効果のメカニズムを結晶多形の制御へ応用することができる。アミノ酸であるグリシンは結晶化する溶液の過飽和度に応じてα、β、γの3つの多形が報告されている。液-液界面析出法で作製したところ、最も不安定なβ結晶の収率は無磁場で17%であった。減重力環境となる鉛直勾配磁場下では70%の収率でβ結晶が得られた。グリシンのβ結晶はバッチ法でも高速撹拌をすれば高過飽和溶液となり得ることができる。しかしながら結晶核が同時に多数できてしまい、大きな結晶を得ることは困難である。磁場中液-液界面析出法の特色が、過飽和度、成長位置の制御と配向であることを明らかにし、その応用範囲を確定しつつある。
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Strategy for Future Research Activity |
最終年度は得られたタンパク結晶の質的な評価をX線構造解析等によって行い、サイズ、質ともに優れたタンパク質結晶が得られたことを証明する。リゾチーム、ソーマチンに限らず他のタンパク結晶、分子結晶、イオン結晶等に本研究の技術が適応できることを示し、適応範囲を見定める。波及効果としてグリシンの磁場による多形制御を確立する。
使用している液体は導電性が低いにも関わらず、その場観測では2液それぞれの対流の様子が磁場の有無で大きく異なるようである。対流の範囲が磁場でどのように変化しているかを見極め、本磁場効果のメカニズムにどのように関連しているかを追求する。
通常の重力下では2つ液体の界面は水平であるが、磁気力が水平方向に作用する磁気力場では界面が傾斜し、ほぼ鉛直にまで達することがある。さらに3つの液相を考えれば、通常では3液の共通部分は存在しないが、磁気力が作用する環境では3液の共通線分が出現する。ここを新しい反応場として利用する方法を追求する。
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Causes of Carryover |
超電導マグネットのメンテナンス費用である。予算に計上していたが、稼働時間が規定に満たなかったのでH29年度内のメンテナンスを見送った。H30年度早々に行う予定である。
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