2017 Fiscal Year Research-status Report
菊池パターンによる表面層の歪および単原子層構造のその場測定
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16K04964
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Research Institution | Yokohama City University |
Principal Investigator |
重田 諭吉 横浜市立大学, 生命ナノシステム科学研究科(八景キャンパス), 教授 (70106293)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
戸坂 亜希 横浜市立大学, 生命ナノシステム科学研究科(八景キャンパス), 助教 (20436166)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | RHEED / Kikuchi Pattern / Surface Fin Structure |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、表面歪のその場測定として菊池パターンを用いる新たな測定手法の確立を目的として実施された。平成28年度は、GaN(0001)を例に実験を行い、その可能性について国際会議で発表した。また、菊池パターンの動力学的回折理論を用いた計算による再現をSi(111)面につて行った。そこで、平成29年度は、菊池パターンの解析を表面の微細構造解析に有効な手法とするため研究を進めた。その結果、動力学的回折理論で計算されるロッキングカーブによる菊池パターンの位置はほぼ実際に観測される菊池パターンの位置を再現すること、また、菊池エンベロープの位置は、表面第1層の局所ポテンシャルに強く影響され、その影響も動力学的回折理論によって再現できることを見出した。 菊池パターンは、入射電子線が非弾性散乱により、様々な方向に散乱された電子線が、入射波として結晶の回折条件を満たす方向に回折されることで、連続的な線状(菊池線)や放物線状(菊池エンベロープ)に強い回折線として現れる現象である。一方、ロッキングカーブは、入射方位を決め、或る視射角で電子線が入射したときの鏡面反射波または或る特定の回折波の強度の視射角依存性を示すものである。一般的に、鏡面反射波が一番強いので、鏡面反射強度の視射角依存性のロッキングカーブを計算し、その方位角を少しずつ変えて計算すると菊池パターンを反映したパターンが得られると考えた。 実際に、Si(111)7x7表面に対する計算結果と測定結果を比較すると、菊池パターンの位置および菊池線が交差する位置の分散の様子など実験結果を非常に良く再現する計算結果が得られた。また、表面の逆格子ロッドによる菊池エンベロープについて、Si(111)√3x√3-Ag表面を例に表面運動学的に計算される位置を調べると表面のAg層の深いポテンシャルによりその位置がずれていることを見出した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
動力学的回折理論により計算されたロッキングカーブを用い菊池パターンを再現した。Si(111)7x7表面に対する計算結果と測定結果を比較すると、菊池パターンの位置および菊池線が交差する位置の分散の様子など実験結果を非常に良く再現する計算結果が得られることが分った。また、菊池パターンの強度分布は非弾性散乱の散乱断面積に依存するためその断面積を考慮する必要があるが、断面積による変化は単調で緩やかな変化であるため、狭い範囲の強度変化は、概ね再現することが分った。 また、金属吸着による表面再配列構造に敏感な菊池エンべロープの挙動について、散乱ポテンシャルの大きな銀によるSi(111)√3x√3-Agおよび散乱ポテンシャルの小さいボロンによるSi(111)√3x√3-B表面構造について解析した結果、両者の√3構造による菊池エンベロープの位置は表面の吸着原子のポテンシャルの値に依存して変化することが分かった。また、電子線が表面の局所ポテンシャルの影響を受ける範囲は、表面原子層の厚さ約2Åの範囲出ることが推定された。この結果は、9月にハンガー、セゲドで開催された33th European Conference on Surface Science (ECOSS-33)、およびJournal of the Physical Society of Japan 86, 114606 (2017)、に発表した。 このよう菊池パターンは構造および表面の組成に非常に敏感であり、動力学的回折理論によるシミュレーションが有効であることが分かった。この手法を完成させるためには、より詳細な強度分布を再現する必要がある。そのためには、表面における高速電子の非弾性散乱断面積を知る必要がある。今後、表面における非弾性散乱確率について実験的に調べ、その断面積を考慮したシミュレーションを行いたいと考えている。
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Strategy for Future Research Activity |
菊池パターンのシミュレーションの精度を向上させるため、表面の構造パラメータが正確に決まっているSi(111)7x7表面を対象に、菊池パターンを正確に測定しその結果とシミュレーション結果を比較することで、表面における非弾性散乱の断面積を決定する。この散乱断面積を用いて、動力学的回折理論に非弾性散乱断面積を考慮しシミュレーションを行い、Si(111)7x7表面の菊池パターンが詳細に再現できるかを判定する。 このシミュレーションで再現できた場合、Si(111)表面に吸着異種原子が存在する場合にも、ここで求めた非弾性散乱断面積を考慮することで菊池パターンが再現できるかを確かめる。ここでも散乱ポテンシャルの異なる銀とボロンが表面に吸着原子したSi(111)√3x√3-AgおよびSi(111)√3x√3-B表面に対する実験とシミュレーションを比較することで、異種原子の吸着による非弾性散乱断面積に与える影響について評価する。 このように、菊池パターンは非弾性散乱電子による回折現象であるため、非弾性散乱機構と構造パラメータの両者が分からないと実験結果と計算結果を正確に評価することは出来ない。しかし、1枚の回折パターンの中の菊池パターンには、種々の方向から入射した電子線の結晶による回折強度が含まれており、入射角や方位角を変化させて測定することなく多くの構造情報を得ることが出来る。このことは測定における位置制御や角度制御の不確定さを除去できる非常に精度の高い測定法になりうると考えられる。したがって、菊池パターンによる構造解析法を確立することは、今後の表面構造解析法の発展に重要な一歩と言える。
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Causes of Carryover |
謝金およびその他の額を抑えたために生じた残であり、次年度の成果発表等に有効に使用したい。
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