2017 Fiscal Year Research-status Report
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16K04967
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Research Institution | Daido University |
Principal Investigator |
堀尾 吉已 大同大学, 工学部, 教授 (00238792)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | 表面電子回折 / 反射高速電子回折 / 中速電子回折 / 波動場 / オージェ電子 / 表面プラズモン |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究目的は、表面電子回折における結晶表面近傍の入射電子密度分布すなわち波動場の振る舞いについての知見を得ることである。そのため、入射電子線の視射角(回折条件)を変化させたときのオージェ強度変化すなわちBRAES(Beam Rocking Auger Electron Spectroscopy)測定を行い、計算波動場との相関性を調べることにある。特に二元結晶では両元素からのオージェピークを識別できるため波動場の局在状態をより明確に調べることが可能であると期待され、InP(111)表面に対して実験を行った。低融点のInPは表面の清浄化が簡単でないためか、表面構造の解析報告はほとんどない。そこで、まずロッキング曲線の測定を行い、動力学的解析から欠陥原子の存在に伴う表面二重層の圧縮構造が実験結果をよく再現できることを明らかにした。 実験BRAESプロファイルからInとPのオージェ強度の振る舞いに違いが確認された。これは波動場の局在を示唆するものであり、重要な成果と考えられる。さらに、MEED-AES装置を用い、1.3keVの入射電子による表面プラズモンの平均励起回数は10keV入射電子のRHEEDの視射角1°から2°の平均励起回数に相当する値を得た。 また、層状結晶であるHOPG結晶を試料として用いてロッキング曲線の測定と炭素のBRAES測定を行った。本試料は結晶分域が面内回転するモザイク結晶(多結晶)であるため、one-beam法を用いてロッキング曲線の解析を行い、その解析手法の有効性を確認するとともに層間隔はバルクと同様であることがわかった。また、BRAES測定結果からBragg反射条件下でCのオージェ強度異常が確認された。one-beam法から計算された波動場がBragg反射条件下で強い定在波を形成することから、強度異常は波動場に依存することが明らかにされた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
平成29年度では二元結晶であるInP(111)A表面及び二次元層状結晶であるグラファイトについて実験を行った。InPは低融点で蒸気圧の高い材料であるため、表面清浄法として従来の通電による高温加熱法は適用できず、500℃近傍ではPの蒸発に伴いInドロップレットの形成の進行が確認された。そこでArイオンスパッタリングと低温アニールの併用により清浄表面を得た。しかしながら、清浄表面構造として知られている2x2構造は必ずしも確実に出現するものではなく、1x1表面が高い頻度で観察された。これはスパッタによる表面ラフネスの影響か、アニール温度によるものか或いはそれらの履歴によるものか判明していないが、欠陥の密度と配列の秩序性によるものと推測される。 ここではInP(111)1x1表面を対象にロッキング曲線とエネルギー計算から表面構造を探索した結果、InまたはP原子の欠陥構造に伴う表面二重層の圧縮構造が形成されていることがわかった。一方、BRAES測定ではInとPのオージェ強度異常がそれぞれ異なる入射視射角で現れることを見出した。これは波動場励起を示唆する重要な結果と考えられる。 グラファイトについてはスリランカ産の天然結晶とHOPG人工結晶を試みた。前者は単結晶であることがLEEDから確認されたが表面平坦性に劣るため、後者のHOPG結晶を対象にone-beamロッキング曲線から表面構造を解析した。また、炭素のオージェ強度に対するBRAESプロファイルはBragg条件下で異常ピークが現れることが観測された。この現象はone-beam波動場計算から解釈された。なお、実験ではコンタミ元素の付着を防ぐため、新たに真空中劈開法を採用したが、劈開時のステップ発生やステップエッジ近傍の層剥離など表面原子の乱れが特に表面敏感なBRAES結果の再現性に影響を与えたものと考えられる。
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Strategy for Future Research Activity |
InP表面構造解析の結果に基づき、波動場の計算を行う予定であり、波動場により実験BRAESに現れるオージェ強度異常を解釈できるか調べる。その際、波動場強度の発散問題に対処するため、計算プログラムの変更など検討する。 波動場の検証実験としてBRAES測定のみならず、表面プラズモン励起についてもRHEED法およびMEED法を用いて調べる予定である。RHEEDでは既に開発済みのエネルギーフィルタの設置を行い、鏡面反射ビームに含まれる表面プラズモン損失ピーク強度と波動場との相関性を調べる。一方、MEED法では空間積分型の阻止電場型エネルギー分析器を用いて調べる予定である。なお、MEEDにおける入射視射角依存性(回折条件依存性)測定は、平成29年度でステッピングモータを用いた角度分解能の高い試料回転動作を可能としたが、その制御システムは平成30年度で構築を進める。 上記実験に用いる試料は既に構造が知られているSi(111)√3×√3-Ag等の金属吸着表面構造を用い、吸着原子からのオージェ電子及び表面プラズモン励起が波動場と如何に相関するか調べる予定である。
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Causes of Carryover |
ほぼ計画通り使用したが、計画時期と購入時期で物品費等の見積りに差異が生じるこが主要因である。次年度使用額については試料回転機構の制御システムの構築とエネルギーフィルタの改良にも充当する予定である。
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Research Products
(11 results)