2016 Fiscal Year Research-status Report
グラフェン表面プラズモンを用いたテラヘルツ広域帯電磁波発振器と増幅器の研究開発
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16K04987
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Research Institution | Institute for Laser Technology |
Principal Investigator |
李 大治 公益財団法人レーザー技術総合研究所, レーザーエネルギー研究チーム, 研究員 (00373209)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
中嶋 誠 大阪大学, レーザーエネルギー学研究センター, 准教授 (40361662)
橋田 昌樹 京都大学, 化学研究所, 准教授 (50291034)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | プラズモンポラリトン / グラフェン / スミス・パセル自由電子レーザー |
Outline of Annual Research Achievements |
申請者らは提案した放射構造体について理論解析とシミュレーション検証を行った。放射構造体は、誘電体、金属スリットを包含した機構に、グラフェンシートを導入する構造とする。低エネルギー電子線と相互作用させると、構造体に表面プラズモンポラリトンや擬似表面プラズモンなど様々な物理メカニズムがあり、その組み合わせた効果により生じた新しい物理現象を探求した。代表的な研究結果は下に記述する。
グラフェンの表面プラズモンポラリトンは外部に放射できない表面電磁モードであり、電磁エネルギーはそのままでは取り出せない。そのため、テラヘルツ波放射を実現するには表面モードから放射モードに転換するアプローチが重要な課題である。我々は理論解析により、プラズモンポラリトンを放射できるチェレンコフモードに転換する手法を提出した。グラフェンシートを貼った誘電体基板の両側に金属側壁を加えると、電磁界の境界条件が変わるため、非放射電磁モードの一部は放射モードになり、チェレンコフ放射として放出することができる。
誘電体と金属スリットを結合した構造を解析した。構造体の寸法や、誘電体材料を揃えると、新しい電磁モードが励起できるとわかった。この電磁モードは真空中に放射しない、誘電体中に放射するという特徴を明らかにした。また、この特徴を活用して従来の手法と異なる基本波放射スミス・パセル自由電子レーザーを提案した。更に、理論解析と電磁界シミュレーションコードを用いてこの提案を実現する可能性を検証した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
電子線はグラフェンと周期的に配列された金属スリット表面を通過する際に、グラフェンの表面電磁モードと、スリットの表面モードが同時に励起される。励起された電磁モードの周波数は、電子線エネルギー、グラフェンの物性、基板の材質、金属スリットの周期長に依存し、その関係を理論解析により明らかにした。この解析結果を用いて構造体のパラメータを調整してテラヘルツ帯域に発生する電磁波放射構造体を設計した。
放射しない表面電磁モードは、周期的に配列された金属スリットを通って放射できるスミス・パーセルモードに転換できると推測し、理論解析を行った。電子線により表面電磁モードを励起し、それによりスミス・パーセル放射モードを励起する物理メカニズムを明らかにした。それとともに、励起されたスミス・パーセル放射の空間分布、放射強度、指向性などを調べた。また、非線形物理現象が起こることにより、表面電磁モード高調波の周波数で放射することも検証した。
テラヘルツ帯域のプラズモンポラリトンの電磁エネルギーを放出する方法は、テラヘルツ波を利用する上で重要な課題である。我々は金属側壁の効果により放射できるチェレンコフモードに転換する手法を提案した。基板の両側に金属側壁を加えると、電磁界の境界条件が変わり、プラズモンポラリトン非放射電磁モードの一部は放射モードになり、誘電体基板の中で放出することを解明した。金属側壁の三次元効果、分散特性、電磁モードの転換と放射物理を明らかにした。
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Strategy for Future Research Activity |
今後は電子ビームとの相互作用によりコヒーレントなテラヘルツ放射を対象として解析を行い、波長可変放射源の基盤理論を確立する。
連続的な電子線は放射構造体を通過する際に、グラフェンの表面と金属スリットの表面にそれぞれ表面電磁モードを励起する。電子線はこれらの表面電磁モードと相互作用し、発振条件を満たせば相互作用により電子線がマイクロ・バンチ化し、コヒーレントな放射が得られる。表面電磁モード共鳴により、相互作用が増強され、通常のスミス・パーセルやチャレンコフ放射により強いテラヘルツ波放射が期待される。理論解析とシミュレーションの手法を併用して、共鳴メカニズム、相互作用過程、コヒーレントな放射などを解析し、装置の発振条件を明らかにする。
既設の低エネルギー(数十keV)電子線実験装置を活用して放射構造体によるテラヘルツ放射の実験研究を展開する。励起された表面電磁モードとの共鳴により増強されたスミス・パーセル放射に転換して放出する現象を検証し、理論解析の結果と合わせて放射技術を確立する。また、放射の強度や空間分布、偏光特性などを計測し、放射構造体のパラメータを最適化する。更に、既設のテラヘルツ発生・検出実験装置を活用して光励起グラフェン表面電磁モードの実験研究を展開する。テラヘルツ波を励起用のスリットを通してグラフェンの表面に照射することでプラズモンポラリトンを励起させ、誘電体基板によりチャレンコフ放射に転換して放出する。これを実験で検証して基盤技術を確立する。
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Causes of Carryover |
現在実験を整備し続けている。翌年度分と合わせて実験用光学部品、電気部品、テラヘルツ波検出器を購入する。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
使用計画:1)粒子シミュレーションを行うために高速コンピュータ利用費。2)放射構造体の製作費用。3)テラヘルツ波検出器購入費用。4)実験用電気部品、光学部品購入費用。5)研究交流、情報交換などに国内と海外の学会参加、発表費用。6)研究結果は論文誌を通じて社会・国民に発信する費用。
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