2017 Fiscal Year Research-status Report
デュアルコム分光による非平衡混合気体の温度測定技術の開発
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16K05009
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Research Institution | National Institute of Advanced Industrial Science and Technology |
Principal Investigator |
清水 祐公子 国立研究開発法人産業技術総合研究所, 計量標準総合センター, 主任研究員 (30357222)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
大久保 章 国立研究開発法人産業技術総合研究所, 計量標準総合センター, 主任研究員 (30635800)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | 気体温度 / 光コム / 温度計測 / デュアルコム分光 / 分子分光 / 一次温度計 / 温度標準 |
Outline of Annual Research Achievements |
デュアルコム分光法により、アセチレン分子の振動回転スぺクトルを一度に観測することで温度計測を行い、従来の吸収分光では実現できなかった、高速(約50秒)・高精度(不確かさ1℃以下)の温度決定に成功した。 デュアルコムにより観測された50本以上の振動回転遷移スペクトルのエンベロープに、分子の振動回転スペクトル線の吸収強度の理論式を、一括してフィッティングさせる新たな解析プログラムを構築し、温度決定に成功した(「回転温度計測法」(Rotational Distribution Thermometry: RDT)」)。この一括フィッティング法は、同じ実験条件で多くのスペクトル線を一度に取得できるデュアルコム分光の特徴を積極的に利用した方法である。本手法により決定した温度は、分子を封入した吸収セルの外壁にとりつけた、国家標準トレーサブルの白金抵抗温度計で実測した温度と0.6℃以内でよく一致した。また、温度決定の不確かさは約1℃であることがわかった。 本手法の精度の高さを検証するために、従来技術による解析法により温度値も求めた。複数のスペクトル線の中から任意の2本のスペクトル線を選択し強度比を求める手法および、1本の吸収スペクトルのドップラー幅を解析する手法の両者の解析プログラムを構築し、温度を決定した。両者とも温度決定の解析に、各スペクトル線のベースラインの不規則な変動が直接影響し、決定温度に大きなばらつきが生じた。これにより、デュアルコム分光による温度測定には、本研究で新しく提案した、多くのスペクトル線を一括して解析する本手法が最適であり、信頼性が高い結果がえられることが証明されたため、その内容を論文発表した。 システムの最適化を行った結果、小型化した吸収セルでも同様のS/Nが得られ、温度決定精度を維持したまま、システムの実用化の可能性を示すことができた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
温度決定精度を上げるために、これまでスペクトルデーターを10000回積算してS/Nを高くしてきたが、測定時間が10分もかかり、高速化できないことが課題であった。この課題を解決するため、測定パラメーターの最適化(具体的には光コムのベースラインのゼロレベルの調整、および光学系中の光学素子でのビームの多重反射の影響の削減等)をおこない、その結果、データーの積算回数を減らすことができ、温度決定精度をおとさずに高速化(50秒)することに成功した。 また、同じくS/Nを高くするため、分子を封入した吸収セルに、大型のマルチパスセルを利用していが、恒温槽の試作器にて検証した結果、マルチパスセルでは温度安定性が目標値を満たさないことがわかった。そこでシステムの最適化を行い、均熱性が高い小型セルにより温度計測を実施した。その結果、小型セルでもこれまでと同様の温度決定精度を達成することができた。現在、小型セルに対応した恒温槽および冶具を制作している。 一方で当初の計画に記載されているように、温度の過渡的な状態を測定するためにはさらに高速化する必要がある。パラメーターの最適化とともに、解析手法の精度を上げる必要があるため、後述するようにスペクトルの分離等による解析プログラムの改良に取り組んでいる。
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Strategy for Future Research Activity |
①本システムにおいて、他種類の気体分子を観測し、これまで観測したアセチレン分子と同じ結果(温度値および決定精度)が得られることを検証する。これにより温度計測システム(温度測定機構と解析プログラム)全般の信頼性を高めることができ、さらに汎用性が広がる。 ②-30℃から110℃の範囲で温度可変でかつ温度安定性数mKオーダーの恒温槽を用いて吸収セルの温度を安定化する。これにより不確かさの要因の1つであった、ガラスセル温度の安定性を向上させることができる。 ③解析プログラムの精度を上げる。各分子の振動回転遷移においては、非常に近い周波数に吸収スペクトルが複数存在し、各スペクトルを分離することが難しい場合がある。現在の解析モデルはそのスペクトル分離が完全ではないため、フィッティング精度を下げる要因にもなっている。解析プログラムをHITRANデーターベースなどと連動させ、スペクトル分離を行い、フィッティング精度をあげる。②と③を行うことにより、温度決定の不確かさの最大要因を特定することも可能となる。 ④測定可能な温度範囲を広げるとともにガス圧、ガス種の最適化を行う。
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Causes of Carryover |
(理由)加熱および冷却する機構となる恒温槽に関して、試作器を改造して検証を行った結果、吸収セル全体の均熱性が目標値に満たないことがわかり、それに基づいて仕様を変更することになったため、次年度の使用額が生じた。具体的には、温度安定性の向上はもちろんであるが、実用化も視野に入れて、吸収セルを小型化する。吸収セル設計変更に伴い、恒温槽の仕様変更を行った。 (使用計画)今年度決定した仕様により、-30℃から110℃までの低温側恒温槽と、400℃まで使用可能な高温側恒温槽および吸収セルを制作し、測定可能な温度範囲を広げる。気体分子の熱的な非平衡過程を作り出すための専用ガラスセルを制作する。
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Remarks |
産総研プレス発表を行いました。
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Research Products
(5 results)