2017 Fiscal Year Research-status Report
インビーム・メスバウアー分光法を応用した鉄水素化物の電子状態と化学結合の研究
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16K05012
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Research Institution | The University of Electro-Communications |
Principal Investigator |
小林 義男 電気通信大学, 大学院情報理工学研究科, 教授 (30221245)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | インビーム・メスバウアー分光法 / メスバウアースペクトル / 固体窒素 / 固体水素 / イオン注入 / 入射核破砕反応 |
Outline of Annual Research Achievements |
(1)放医研HIMACにクライオスタットを設置し、窒素マトリックスを用いた実験を行なった。これは、最終目的である水素固体マトリックス実験を行うための、予備実験である。 (2)得られたメスバウアースペクトルの解析と分子軌道計算結果から、窒素マトリックス中のFe原子の占有位置とFe-N化合物の同定をした。
インビーム・メスバウアー実験を、放医研重粒子ガン治療装置HIMACの二次ビームコースSB2で行なった。58Feで富化したフェロセンをECRイオン源でイオン化し、LINAC加速器によって58Feビームを前段加速して、これをシンクロトロンに入射して核子あたり500 MeVまで再加速後、Be標的に照射して、入射核破砕反応によりメスバウアープローブ核57Mnを得た。58Feから陽子1個が剥ぎ取られた57Mnを、二段の質量分析器を用いて電磁的に他の破砕片から分離し、最適化した。これをインビーム・メスバウアー分光スペクトロメータに導き、Pb板とAl板のエネルギー減速材を通過させ、固体窒素試料に直接イオン注入した。プローブ核の停止位置は、くさび形アクリル板で微調整した。メスバウアーガンマ線の検出は、ガスフロー型平行平板電子なだれ型検出器(PPAC)を用いた。PPACをメスバウアー駆動装置に取り付け、57Mnのイオン注入をしながらメスバウアースペクトルをオンライン測定した。実験で得られたスペクトルのパラメータ(異性体シフト・四極分裂・線幅・共鳴面積強度)と密度関数計算の結果と合わせて、固体窒素中の孤立Fe原子の電子状態と化学状態を考察した。 今回の結果から、従来のガスマトリックス単離法では得られていない新規Fe-N化学種が合成できた。詳細については、現在解析中である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
短寿命不安定核57Mnを用いた本実験は、従来の長寿命57Coの発光メスバウアー実験や57Feのレーザー蒸発マトリックス単離法では得られなかった結果を示した。57Coの電子捕獲壊変とは異なる壊変様式とそれに伴うオージェ過程の影響を受け、レーザー蒸発法と比べると57Feプローブ核の数が1万倍以上少ないことが起因していると考えられる。完全に孤立したFe原子とガス・マトリックスの反応を観察するには、本手法がより本質的な理解に役立つと考える。反応性が高くない窒素マトリックスであるが、新規のFe-N化合物が得られたことから、気相反応の生成物に見られるFeクラスターや分子が熱エネルギーで解離した原子状元素との反応物とは異なる反応プロセスが示唆される。N-N間の化学結合を保持したままの化学種ができたことは興味深い結果である。高励起イオンを固体中に注入すると、格子欠陥が多くアモルファスとなり、プローブ核周囲は乱れた欠陥だらけと考えられてきたが、実験結果は分子内の化学結合を保持した構造が多く観測され、57Feの最終占有位置の周りの環境はほとんど乱れておらず、マトリックス分子の反応性が初期生成物の構造を決定することを示唆している。現在、実験結果を理論計算と合わせて詳細に検討しているところである。 本年度得られた研究成果は、2018年7月のアイソトープ研究発表会(日本アイソトープ協会主催)で口演発表する予定である。放医研HIMAC課題審査委員会からは、これらの研究実績に対して高評価をいただいている。
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Strategy for Future Research Activity |
インビーム・メスバウアー分光実験で用いたガス・マトリックス試料は、メタン、エチレン、アセチレンの炭化水素系と今回の窒素を用いた。これらは比較的融点が高いために凝集した固相を得ることに大きな実験的困難は少なかった。水素は融点が14 Kであるので、確実に低温に保持できる試料セルを設計作製して、加速器実験前に十分なテストを行なう必要がある。 セルの材質を低酸素銅とし、57Mnビームのスポットサイズ径からφ25 mm、厚さ5 mm程度の容積とする。窓材は、固体試料を目で監視できるようにアラミド膜とする。ターゲットセルは、パルスチューブ型閉サイクル冷凍機に接続したクライオスタットのコールドヘッドに直接取り付けられる形状とし、セル内に高純度パラ水素を導入するSUS管を接続する。セルの温度は、Siダイオードセンサーによりモニターする。ターゲットセルをコールドヘッドに直接取り付け、ターボポンプ排気系により10<sup>-5</sup> Paまで十分に真空排気する必要がある。セルの温度が10 K以下になったら、高純度水素をマスフローコントローラで制御しながら導入する。ガス導入の圧力と流量のパラメータを適宜操作して最適条件を割り出す。急激な温度上昇による圧力変化に対処するために、排気系にはバッファータンクを用意する。オフラインでのテストを繰り返し、加速器実験に進めるよう準備中で、この夏にはオフラインで固体水素の作製を行う予定である。
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Causes of Carryover |
今年度は、メスバウアーガンマ線検出器の校正用に密封57Co線源をアイソトープ協会から購入した。ドル建てで予定していた当初の金額との差分が発生したためであり、研究計画には大きな支障はない。
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Research Products
(2 results)
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[Journal Article] Chemical reactions of localized Fe atoms in ethylene and acetylene matrices at low temperatures using in-beam Mossbauer spectroscopy2018
Author(s)
Y. Kobayashi, Y. Yamada, M. K. Kubo, M. Mihara, W. Sato, J. Miyazaki, T. Nagatomo, K. Takahashi, S. Tanigawa, Y. Sato, D. Natori, M. Suzuki, J. Kobayashi, S. Sato, A. Kitagawa
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Journal Title
Hyperfine Interact.
Volume: 238
Pages: 1-9
DOI
Peer Reviewed / Open Access
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